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安全なSNSの裏側。アフリカで急増中の過酷な職業「コンテンツモデレーター」ケニアでは140人以上が精神疾患に【Steenz Breaking News】

安全なSNSの裏側。アフリカで急増中の過酷な職業「コンテンツモデレーター」ケニアでは140人以上が精神疾患に【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、アフリカでSNSのコンテンツモデレーターが精神障害などの症状を訴えている問題について紹介します。

アフリカでコンテンツモデレーター職が急増中

「コンテンツモデレーター」という職業をご存知でしょうか。SNSや動画サイトで企業のガイドラインに従ってコンテンツを監視、必要であれば削除する職業です。

FacebookやInstagramを運営するMetaや、TikTokで知られるByteDance株式会社などの大企業は、コンテンツのモデレーションを外部に委託しています。下請けの企業はアフリカにあることも多く、現在、アフリカでは現地の下請け企業でコンテンツモデレーターとして働く人が増えていると言います。

その理由のひとつが、アフリカの人件費の安さです。ケニアやガーナ、ナイジェリアではITインフラが整っており、英語が公用語である上に、米国や欧州より人件費が圧倒的に安いため、国際企業は拠点を置きやすいのです。ケニアのコンテンツモデレーターの収入は米国の同業者のわずか1/8という報道もあります。

しかし、これらの国では決して、労働環境や法制度が整っているとは言えません。労働者を保護する法律や制度、心理ケアなどが整備されていない場合もあるのです。

精神に影響する過酷な仕事。会社の責任は?

実際にいま、アフリカでは、ソーシャルメディアのコンテンツモデレーターが精神障害などの症状を訴え、問題となっています。

2024年、ケニアでFacebookのコンテンツモデレーター144人を対象にした調査で、彼らがSNSに載せられた殺人や自殺、拷問、児童虐待、性的虐待、テロなどのコンテンツを視聴していることによって、81%もの人がPTSD(※)、不安障害、重度のうつ病の症状を訴えていることがわかりました。

※PTSD(心的外傷後ストレス障害):トラウマになる出来事(心的外傷的出来事)を経験したことにより、日常生活に支障をきたす反応が現れるストレス症状群のこと

また、彼らのうち少なくとも40人はアルコールや違法薬物を乱用しており、私生活に影響を及ぼしていることが判明したのです。

2025年4月には、ケニアでTikTokのコンテンツモデレーターとして働いていたナイジェリア人が亡くなりました。2022年からケニアに住んでいた彼女は、同僚に「家に帰りたい」と伝えていましたが、帰国が許されるのは年に一度だけ。会社には、休暇を拒否されていたと言います。彼女は亡くなる前、疲労を訴えていたそうですが、死亡要因は明らかにされていません。

 

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過去にケニアのモデレーターは、Metaに対して集団で人権侵害訴訟を起こしました。裁判所は、Metaとコンテンツモデレーターを雇用する下請け企業に対し、適切な医療と精神医学的、心理的ケアを提供することを要求しました。

2025年4月にはガーナでも、英国を拠点とするNGOが、150人のコンテンツモデレーターの心理的危害と不当解雇をめぐって、Metaに対して訴訟を起こしています。

また同月、ケニアでは、モデレーターの低賃金や精神的負担といった問題を問うため、世界初となるコンテンツモデレーターのグローバル労働組合同盟が設立されました。

「安全なSNS」の裏側で

これらの問題の解決策としては、AIによって有害なコンテンツを自動検出し、モデレーターがショッキングな動画や画像を直接視聴する機会を減らす、コンテンツの視聴や審査による心身の不調を、労働災害の補償対象にするなどがあげられます。しかし、先述のように、そもそもアフリカにおいて労働者を守るための法や制度はいまだ十分ではありません。今後、政府と企業が協力し、環境や法制度の整備が求められています。

References:
The Guardian「More than 140 Kenya Facebook moderators diagnosed with severe PTSD」
The Guardian「PTSD, depression and anxiety: why former Facebook moderators in Kenya are taking legal action」
AP「Funeral held in Kenya for TikTok content moderator following death in unclear circumstances」
Business & Human Rights Resource Centre「Ghana: Meta faces allegations over content moderators worker rights abuses hired by contractor」
The Guardian「Meta faces Ghana lawsuits over impact of extreme content on moderators」
Global Union「CONTENT MODERATORS LAUNCH FIRST-EVER GLOBAL ALLIANCE, DEMAND SAFE WORKING CONDITIONS AND ACCOUNTABILITY FROM TECH GIANTS」
American Psychiatric Association (2013) Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth edition (DSM-5). American Psychiatric Publication, Washington, D.C. (日本精神神経学会監修 (2014) DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院, 東京)

Text:Hao Kanayama

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Hao Kanayama

ライター

16歳、初アフリカ大陸上陸。19歳、アフリカ10か国放浪。20歳、ウガンダ移住。ウガンダの現地の会社とNGOの職員として、ストリートチルドレン、シングルマザー、薬物中毒者、孤児の支援を行う。不条理で不都合な世界だけど、その先にある希望を求めて歩き続ける、アフリカの人々の暮らしをわたしの目線から伝え続けたい。少数民族と木登りとテクノがスキ。

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