
「気になる10代名鑑」の1113人目は、松本 敬さん(19)。生物部に所属した中学生のころから、高尾山に住むムササビ研究に身を捧げてきました。「鳴かず飛ばすのフィールドワークの日々は大変でした」と語る松本さんに、活動のきっかけや今後の展望を聞いてみました。

松本 敬の活動を知る5つの質問
Q1. プロフィールを教えてください。
「中学生のころからフィールドワークを行い、高尾山に住むムササビの生態を解明しながら森林の環境との関係について研究を続けています。
フィールドワークや地図解析の結果、ムササビは人工林・天然林を問わず、樹齢の高い森林を好んで生息していることが分かりました。高校生のときにその成果を取りまとめ、日本森林学会第11回高校生ポスター発表で最優秀賞などをいただきました」
Q2. 活動を始めてのファーストアクションは?
「もともと生物が好きだったこともあって入部した、中学校の生物部の活動です。
顧問の先生がムササビを研究していて、高尾山の薬王院周辺での活動があったんです。暗闇を木から木へと滑走する姿が神秘的で。参加していくうちにどんどん研究にのめり込むようになりました。先生は、ムササビの痕跡の見つけ方から、フィールドワーカーとしての歩き方や勘所まで教えてくれました。本当に感謝しかありません。
そのうちに、道中の森林にもムササビが暮らしていると気づいたんです。中学2年でわたしが班長として全山調査をスタートすることになって。班ごとで担当エリアを分けて、ムササビがいたところを地図上の座標にピンにして立てていきました。
さらに、GISという地図を重ね合わせるシステムを導入し、森林の年齢や、人工林・天然林の区分といった森林の管理情報と照らし合わせました。ムササビがどのような環境を選んで住んでいるかを定量的に解析することにしたのです」

Q3. 活動をする中でつらかったことは?
「学業とも並行させながら、夜の高尾山に100晩通った高校の日々は、時間に追われてとても大変だった記憶があります。まさに青春をムササビに捧げた思いです(笑)。フィールドワークは楽しいですが、ムササビの姿も声も見つからない、いわば『鳴かず飛ばず』の日は流石にこたえましたね。
それでも、山でムササビの声を聞けた時は、『やっぱりここにもいるんだ!』とホッとした気持ちになりましたし興奮しました。また高校時代、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)のポスター発表会では、地道な調査について『時間をかけて取り組んでいる』とその労力を評価してもらい、奨励賞もいただけて。『この研究は続けていいんだ』と思えて報われた瞬間でもありました」
Q4. 最近始めたことはなんですか?
「大学に入ってからは、研究室が持っている非常に高価なOWL(アウル)という地上型のレーザースキャンシステムを使わせてもらえることになりました。地上からレーザーを360度照射して、木の密度や太さ、高さといった情報を高精度で計測できます。
『ムササビは古い木の多い森に好んで住んでいる』とわかったものの、なぜそうなのかという理由までは解明できていませんでした。アウルを使って森林のデータを取ることで、実証的に裏付けられるんじゃないかという期待があります。
研究室の環境や、そこに集まるみんなの協力が刺激になっているからこそ、いまの自分があるんだなと実感しています」
Q5. 今後の展望は?
「これからも研究を続けていきたいです。ムササビをひとつのシンボルとして、新しい森林モデルの提案や、日本だけではなく東アジア全域での森林保全活動に繋げていけたらいいなと考えています。
ムササビに愛着があるのはもちろんですが、エサとなる植物が多様であるなど豊かな森林を好む性質を考慮すれば、生物多様性といった環境の指標になる動物だと思っています。
ムササビ属は東アジア各地で確認されていて、日本にはいない種類の生息状況にも興味があります。この研究の基本はフィールドワークですので、将来は台湾の山奥などで現地の人々と交流しながら調査できたらいいなと思います。大学で勉強している中国語に最近ハマっているので、その言語学習を活かしたいです」

松本 敬のプロフィール
年齢:19歳
出身:東京都
所属:慶應義塾大学環境情報学部一ノ瀬友博研究室
趣味:旅、写真
特技:オリエンテーリング歴8年。地図がある限り、世界中どこでも迷子にならない!
大切にしている言葉:一芸は万芸に通ず(世阿弥)
Photo:Nanako Araie
Text:Chihiro Bandome






