
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、南スーダンの石油採掘が環境や市民にもたらしている影響についてご紹介します。
約80%が水の中にある街
南スーダンは2011年に独立した世界で最も新しい国で、1974年に油田が見つかってからは、国家予算の98%を石油でまかなっています。しかし、同国に暮らす人々はいま、石油採掘による環境危機に気候変動が重なり、深刻な状況に陥っているのをご存知でしょうか。
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まず、石油の採掘において、過去には油田の近隣住民が立退きを命じられたことがありました。立ち退きを促す役割はスーダン軍に一任されており、軍が人権侵害となる行動をおこなったと、社会問題になっています。現在、南スーダンの石油産業は、油田の警備などを含めて軍と共に事業を展開しており、石油と武力との結びつきが国際社会から問題視されている状況です。
さらに、気候変動による記録的な洪水も重なり、石油産業で有名なユニティ州では、洪水が原因で街の約80%が水の中にあります。70万人以上に影響を及ぼし、その多くが国連などが運営する国内避難民キャンプに暮らしています。
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水や土壌の汚染による深刻な健康被害
何より深刻なのは、健康被害です。南スーダンの各地にある石油工場では、石油は貯蓄タンクに運ばれますが、汚染物質を含んだ排水は適切に処理されることなく、人々が飲料水や生活用水として使ったり、魚を獲ったりする川や池に流されていくことがあります。
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また、石油を取り出す際に生じるの廃棄物の多くは、廃油や廃酸などが含まれた汚泥ですが、汚泥も石油採掘場の付近に広がっています。
こうした排水や汚泥は、2021年に発生した洪水で、南スーダンの街全体に広がってしまいました。その結果、放牧民が多く暮らす地域では、洪水により14万頭以上の家畜が死んでしまったそうです。
飲料水にアクセスできない人々は洪水で汚染された水を沸騰して飲むこともあります。そうした水を飲んだ人たちには、下痢や、コレラ、息切れなどの症状が多く見られています。
それだけでなく、過去に研究者は、油田とその周辺地域の土壌などのサンプルを採取し、健康に深刻な影響を与える化学物質の「炭化水素」を非常に高い数値で発見しました。また、石油を採掘するときに出る泥や液体などを貯蔵する廃棄物ピットは有毒物質のヒ素と鉛で汚染されており、これらも洪水によって油田地域から流出していることを発見しました。
世界保健機関(WHO)によると、ヒ素や鉛などは癌や呼吸器疾患、死産などを引き起こす可能性があると指摘されています。実際に各種調査によると、南スーダンは汚染関連の死亡率が世界で7番目に高いと言われています。
これまでに頭や目、手足がない子供、小頭症や水頭症をもった子どもが多く生まれ、ルウェン州の油田周辺で発生した出生異常は、2015年から2017年のたった2年間で19%から54%に増加しました。しかし、南スーダンでは、障がいのある子どもはタブー視されており、親も含めて社会から疎外されることもあるといいます。
国の資源が悲劇を生む
このように環境破壊と人権侵害を引き起こしている石油産業ですが、実は南スーダンの最も有名な油田から産出される石油は、日本や中国、イタリア、シンガポールなどに輸出されています。
石油会社には多国籍企業が多く含まれており、石油産業で生まれた利益は、そうした企業が多くの割合を取得するケースが多いようです。紛争解決を目的とする国際的な非政府組織・国際危機グループの2021年の報告によると、南スーダンの石油利益の60%を多国籍企業が得ているといいます。
また、南スーダンの石油とガスの埋蔵量の90%は、まだ開発に至っていません。多国籍企業にとって、南スーダンの石油・ガス資源は将来的に利益があると魅力的に映っているようです。
国が石油産業に依存しているのにも関わらず、アラブ諸国のように石油産業が国有化されていない理由を、南スーダン在住の筆者の友人に聞いてみました。
友人によると、「南スーダンで石油を採掘している中国は道路や病院の建設に携わり、インドやマレーシアは物流の分野に携わっている。南スーダンのインフラを豊かにする代わりに、石油を採掘する権限を与えられている」「過去にも大統領や一部の政府関係者が石油による収益を横領していることが問題になっている」といいます。
また、現在、多国籍企業の経営陣や専門職は外国人が担っていることが多いそう。石油産業の国有化を目指すには、専門知識を持ち、経営を仕切ることのできる人材が必要です。そうした人材を育成するためには時間がかかるため、国有化が進んでいない現状があるようです。
身近な石油はどこからくるのか? 改めて考えてみて
利益を優先した先に生まれてしまっている、環境破壊と人権侵害。これらの犠牲となる人々は石油を購入する余裕がない人々であり、貧しい人ほど逃げ道はないように感じます。石油開発によって失われた環境と健康は取り戻すことがほぼ不可能であり、消費者のわたしたちは、この問題についてもっと知っていくべきではないでしょうか。
References:
United Nations Peacekeeping 「Independence of South Sudan」
内閣府「現地からの声:世界で最も新しい国! 南スーダン雑感」
VOA「Officials in South Sudan’s Unity State seek humanitarian aid after severe flooding」
UNHCR「South Sudan floods wreak havoc on vulnerable communities」
AP「South Sudan ignores reports on oil pollution, birth defects」
AL JAZEERA「South Sudan on edge as Sudan’s war threatens vital oil industry」
Motor Intelligence「南スーダンの石油・ガス上流市場規模・シェア分析-成長動向と予測(2024年~2029年)」
Text:Hao Kanayama