
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、元受刑者の雇用問題に取り組む欧州のプロジェクト『Turning Blue』についてご紹介します。
罪を犯した人の社会復帰と再犯防止が世界的な社会課題となっている
昨今、日本を含めた世界各国で「罪を犯した人たちの社会復帰や再犯防止」について議論する機会が増えています。
ひとたび罪を犯し、刑務所や少年刑務所などの刑事施設に入ると、出所後、「元受刑者」であることがネックとなり、再就職ができず生活に影響を及ぼしてしまうケースがたびたび発生しています。社会復帰が円滑に進まなかった場合、元受刑者の中には、再び犯罪に走ってしまう人もいます。
実際、日本では、就労の有無が再犯リスクに影響することが明らかになっています。法務省の『令和6年版 再犯防止推進白書』によれば、刑務所に再入所した人のうち、約7割が再犯時に無職だったそう。仕事に就いていない元受刑者は、仕事を得た元受刑者と比べて再犯率が約3倍になるというデータもあり、元受刑者に安定した職に就いてもらうことの重要性がうかがえます。
ヨーロッパでも、元受刑者の再就職は難しい現状がある
受刑者の更生にまつわる仕組みが進んでいるイメージのあるヨーロッパでも、実は日本と同じく、元受刑者の再就職までの道のりが険しい現状があります。Aebiらによる調査では、2021年には140万人以上の受刑者が欧州評議会加盟国の刑事施設に収容されており、その平均年齢は36歳だったことが明らかになりました。
そして、ヨーロッパの報道をチェックしてみると、現地でも元受刑者の社会復帰と再就職の問題は社会課題として広く認識されているようで、ある記事では、元受刑者が「出所後は就職が厳しくなる」「人々は、わたしがどのような人間なのかではなく、何をしたかで判断する」といった内容を話していたのが印象的でした。
課題解決に挑む『Turning Blue』プロジェクト
そんなヨーロッパでは現在、元受刑者の雇用問題を解決するために、『Turning Blue』というプロジェクトが進められています。これは、16〜30歳の若い元受刑者を対象に展開される、ブルーエコノミー分野においてキャリアを築けるよう支援するための取り組みです。
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「ブルーエコノミー」とは、健全な海洋生態系を維持しつつ、経済成長や生計の向上、雇用などのために海洋資源を持続的に利用すること。現在ブルーエコノミー分野では、特に若い労働者が不足しており、課題となっています。そのため、『Turning Blue』は元受刑者の雇用問題だけでなく、労働力不足の解決にもつながると期待されています。
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このプロジェクトに参加しているのは、EU諸国の5つの刑務所に収監されている84人ほどの受刑者たち。彼らは現在、ブルーエコノミー分野の仕事に関連した、知識やモチベーションなどを高めるトレーニングを受けています。加えて、若年受刑者と彼らを雇用するブルーエコノミー事業者をつなぐ就職斡旋プラットフォームも設置しました。本プロジェクトは、2023年9月1日〜2026年8月31日にかけておこなわれるそうです。
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世界と比較し、日本の現状についても改めて考えてみよう
『Turning Blue』プロジェクトのように、元受刑者と社会をつなぐきっかけとなる存在は、再犯率を下げるためにも必要です。冒頭でも書きましたが、法務省によると、再入所した受刑者のうち約7割が無職だったということも明らかになっており、元受刑者が更生するためには、仕事を通して他者や社会とつながることの重要性を感じます。
「社会とのつながりの回復」と言えば、ノルウェー南部の「ハルデン刑務所」の取り組みが有名です。この刑務所では、決められた時間は独房にいなければならないものの、それ以外は刑務所の敷地内で出所後を見据えた訓練や教育プログラムなどを受けます。また、看守と受刑者が行動を共にし、食事やレジャーなども一緒におこなうそうです。さらに、必要なテストを受ければ、刑務所内の施設でパートナーや子どもたちと数晩過ごすこともできます。こうした受刑者の人権を尊重し、社会との接点を保ちつつ生活する仕組みにより、ノルウェー全体の再犯率は従来の60~70%から約20%にまで低下したそうです。(※)
※ただし、ノルウェーにおける再犯率のデータは出所後2年以内のもの。ハルデン刑務所の取り組みが再犯率低下に実際に効果的なものだったのかは、今後数十年間のデータなどを検証する必要があるとされています。
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犯罪に手を染める。これは、たしかに“良くないこと”です。ですが、罪を犯してしまった人の中には、経済情勢や社会環境の変化、不安定な家庭環境など、さまざまな要因が複雑に絡み合った結果、犯罪に走ってしまった人もいます。受刑者に対する現在の社会のあり方は、本当にこれでいいのか。今一度、考えてみる必要があるのではないでしょうか。
Reference:
令和6年版再犯防止推進白書(概要)
令和5年版 犯罪白書 第2編/第4章/第2節/1|法務省
犯罪白書|一般財団法人日本刑事政策研究会
3 犯罪情勢をめぐる社会的背景|警察庁
Prisons and Prisoners in Europe 2021: Key Findings of the SPACE I report
再犯防止を強力に推進するための社会内処遇の充実強化~刑務所出所者の再入所率の大幅な低下を目指して~
Text:Yuki Tsuruda