
「気になる10代名鑑」の881人目は、水野結希さん(17)。日本の学校教育に問題意識を持ち、子どもがひとりひとりの個性や特性に合った教育を受けられるようなシステムの構築をめざして、活動しています。誰もが知的好奇心を持ち続けられるような社会にしていきたいと話す水野さんに、活動についてあれこれ聞いてみました。
水野結希を知る5つの質問
Q1. いま、力を入れていることは?
「日本の教育システムについて考え、活動しています。目標は、どんな学校でも、子どもがそれぞれの個性や特性に合った教育が受けられるようになること。もともと『ギフテッド教育』の普及を目標としていましたが、『ギフテッド』という言葉がただ『天才児』という意味でひとり歩きしていることに課題感を持つようになって。その本質を捉えた教育システムを作っていきたいです。
高校2年生のときには、大阪大学が主催する『SEEDSプログラム』に参加して、人文科学と生命工学、ふたつの側面から人間の脳についての研究をおこないました。同じころ『ENIT』という団体を結成して、社会問題をさまざまな視点から再構築することを目的にした、中高生向けのイベントを開催しています。
曖昧な物事に対して、理性的・数理的な手法でアプローチすることを大切にしながら、活動しています」
Q2. 活動をはじめたきっかけは?
「学校教育のありかたにモヤモヤを感じていたことがきっかけです。もともと、保育園に通っていたときから、算数に興味があって。小学校に入学したらもっと学べることを楽しみにしていたんです。
でも、実際に小学校に通い始めたら、期待していた進度とか内容じゃなくて、がっかりしたんですよね。みんなに平等な教育を与えるっていうのには、同じラインまで追いつくってこと以外にも、同じ量だけ成長するっていう意味合いもあるはずだと思うんです。でも、進度に遅れてしまっている人に対するサポートはあるのに、もっと勉強したいっていう人は、ただ待たされるだけで、同じように困っているっていうことを理解してもらえなくて……。
他の人にはそういう思いを味わってほしくないっていうのと、みんなが『なんで?』っていう純粋な疑問を大事にできるような小学校教育について考えたくて、活動を始めました」
Q3.活動をしている中で、印象的だった出来事は?
「高校2年生の冬に『人類学キャンプ』というイベントに参加したことです。
そこで、生きた鶏を屠る経験をしました。そのあと参加者同士で焚火を囲んで、思ったこととかを共有し合ったんですけど、感情的な雰囲気が漂っていて。とはいえ、わたしたちが普段スーパーで買っている鶏肉も、同じひとつの命だし、同じ重さじゃないですか。でも、そういう理性的な意見が倫理的じゃない、みたいにその場では受け取られてしまったんです。
『命の重さ』みたいな抽象的な物事に対して、感情面も大切だけど、それに偏りすぎると議論が遠回りしてしまうんじゃないかって感じて、理性的な面からのアプローチも大切にしたいなって思うようになりました」
Q4.活動を通して、実現したいビジョンは?
「あらゆる人が、大人になっても知的好奇心を膨らませ続けられる社会にしていくことです。
わたしの場合は、勉強熱心なことに対して、周りの人があまり好意的じゃなかったこともあって、いまに至るまでに好奇心が少しずつしぼんできてしまってきた感覚があって。でも、学校っていう場は、本来それを膨らませていくところだと思うんです。
教育が人間を作って、人間が社会を作って、社会によって作られた人間がまた教育を作っていく。だから、わたしはそういう循環の源となる、知的好奇心を増大させられるような教育環境やシステムを作っていきたいです。そうすれば、より多く人が自分の言葉で語って、ずっと自分の興味を失わない社会にしていけるんじゃないかなって思っています」
Q5. 今後の展望は?
「言語哲学を勉強して、将来的には研究者になりたいと考えています。
でも、学問的に突き詰めていくだけじゃなくて、自分の研究した結果を実践したり、文部科学省などの教育に携わる機関に専門家として提言したりしていきたいと思っていて。世界でいちばんこのテーマに対して考え続けている人でありたいです」
水野結希のプロフィール
年齢:17歳(2006年12月29日)
出身地:大阪府大阪市
所属:大阪府立咲くやこの花高等学校、阪大SEEDS、ENIT(Eureka’s Next Innovation Team)、ひだまり文庫
趣味:純文学を読むこと、TRPG、おいしい珈琲をいれること
特技:けん玉
大切にしている言葉:失明宣告を受けた人間が、最後に見る眼で、街を描写すること/安倍公房
Photo:Nanako Araie
Text:Fuka Hagai