Fasion&Culture

好きってなんだろう?なんか生きづらさを感じている人に。Steenzブックレビュー 【本と私と。】

好きってなんだろう?なんか生きづらさを感じている人に。Steenzブックレビュー 【本と私と。】

はじめまして、小春です。「書評アイドル」として執筆活動しながら、モデルなど幅広く活動している20歳です。

そんな私、小春による書評フォトエッセイ連載企画 “Steenzブックレビュー『本と私と。』”がスタート! この企画では、自ら、毎月テーマを設定、選書して紹介。私と同じく以前10代名鑑に出演されていた写真家の村山莉里子さんに同じテーマで撮影をいただいて、「感情と風景が交差するところ」をコンセプトに、新しい本との出会いをみなさんに届けられたらと思います。

今回のは、「好きってなんだろう?って、なんだか生きづらさを感じている人」におすすめの1冊『ぬいぐるみとしゃべる人は優しい』です。

友だちと恋人の好きの違いって何?

 私は「好き」がよくわからない。大切な友だちのことを人として好きって思う気持ちはあるけれど、そうじゃない方の「好き」が分からない。恋愛をしているみんなが楽しそうで、私も経験しないといけないのかなと思ったこともあった。でも、無理に恋愛をしようとしても気持ちが追い付かないし、デートに行ってみたってやっぱり罪悪感に押しつぶされて楽しめなかった。私だけ「好き」を知らないままで苦しかった。

 この物語の主人公は、私と同じように友だちと恋人の「好き」の違いがわからない大学2年生の七森。彼は、自分だけが恋愛に参加できてない疎外感だけで、同じサークルの白城と付き合い始めてしまう。でも、いざ男女の関係になってみたら、男性である七森は白城を怖がらせたり傷つけたりする側になってしまったことに戸惑ってしまう。結局、七森は友達と恋人の違いがわからなくなってすぐに別れてしまう。

言えないけど言いたいこと

 19歳の七森は、「ぬいぐるみサークル」という変わったサークルに入っている。辛いことを話すと相手を傷つけちゃうかもしれないから、ぬいぐるみに話そう、という思いで作られたサークルで、主な活動内容はぬいぐるみとしゃべること。なんだか不思議な光景だけど、カウンセリングがあるみたいに話すことでケアされることもある。だからぬいぐるみとしゃべることって意味のあることかもしれない。

 私も、相手を傷つけちゃうかなとか考えすぎたり、ニュースに心がやられちゃったりすることがよくある。他人の感情にいちいち心をすり減らす必要がないのに、勝手に病んで面倒くさいな、って自分でも思う。そんなときに私も、ぬいぐるみではないけれど、お風呂に入りながらひとりでぶつぶつ愚痴を吐き出してみることもある。「大丈夫じゃない」って誰かに言うのは勇気がいるよね。

「つらい」って言える関係

 物語の中で七森は、友人の麦戸ちゃんの前ではありのままの自分でいられる。麦戸ちゃんとは同じ学科で、入学当初から一緒にぬいぐるみサークルに入るくらい仲が良かった。でも、麦戸ちゃんが突然学校に来なくなってしまう。痴漢現場に居合わせたことが原因で、社会に対してすごく敏感になって人に会うことが怖くなったからだった。七森は、麦戸ちゃんにノートを渡しに行ったとき、その理由を初めて知る。そして、七森も男性という加害者側にいる恐怖を打ち明ける。2人はお互いに「つらい」と言えて、ずっと一緒にいたいって思える人だったから、七森は、恋愛感情ではないけど、麦戸ちゃんに「大好き」というそのままの気持ちを伝える。

 七森と麦戸ちゃんの関係は、とってもすてきだ。私にとっては理想の関係だなとも思う。付き合いたいとか、触れたいとか、ドキドキする恋愛感情じゃなくても、この2人の「大好き」の気持ちが愛と言っても過言ではないはず。恋愛の「好き」と、友情の「好き」は違うけど、どちらも同じように強い感情だと思う。だから、異性だけど、友達でも恋人でもない好きを持つ関係性があってもいい。恋愛的な好きが全てじゃなくて、それぞれの好きの形があるのだと、私はこの本を読んで、前向きに思えるようになった。

今回紹介した本

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい

ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』/大前 粟生 著/河出書房新社

SNS Share

Twitter

Facebook

LINE

小春

小春(こはる) 2004年生まれ。大学生、書評アイドル。12歳からアイドル活動を始め、2017年〜『週刊読書人』でweb連載。「カンコー委員会」一期生、三期生(商品開発)の他、『NHK高校講座現代文』で生徒役を務めた。「ミスiD2021」では本と女優賞を受賞。大好きな本を中心に書評やモデル、俳優など幅広く活動中。

View More