世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、密猟者から野生動物を守るためのスマートツールについてご紹介します。
4万4,000種の生き物が絶滅の危機に瀕している
2023年12月11日に、アラブ首長国連邦のドバイで開催された「第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(以下:COP28)」。そこで、絶滅の恐れがある世界の野生生物をリスト化した「レッドリスト」の最新版が発表されました。
今回発表された『IUCN絶滅危惧種レッドリスト』は、地球上に存在する動物や植物・菌類など、生き物の保全状況をまとめたもの。15万7,190種もの生き物を評価し、その中でも絶滅する可能性が高いと判断されて、登録されたのは4万4,016種。前回よりも約2,000種も増えており、魚類のサワラ(準絶滅危惧種)や、スズメに似た容姿のメダイチドリ(絶滅危惧種)など、日本で馴染みのある生き物も掲載されています。
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絶滅危惧種の増加の原因というと、気候変動を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。実際に、リストに掲載された6,754種の生き物は、気候変動の影響を受けているそうです。しかし原因は気候変動だけではなく、大きな原因のひとつが「密猟」だといわれています。
南米の森で起きている野生動物の減少
ブラジルの大西洋海岸線沿いから、パラグアイやアルゼンチンまで、5,000km以上に広がる「ブラジル大西洋岸森林」は、イグアスの滝やイグアス国立公園などで知られる、世界有数の大森林です。2,000種類以上の植物が覆うこの森には、その自然の恩恵を受けながら、多様な動物たちが暮らしています。しかし近年、動物たちの命を脅かす問題が起こっているのです。
たとえば、ネコ科の哺乳類であるジャガーは、森林伐採が進められたことにより、ジャガーのエサとなる生き物の数が減少したことから、個体が減少傾向にあります。さらに、森の奥地へ続く道が整備されたことから、密猟者がジャガーへ近づきやすくなってしまいました。ジャガーの毛皮や骨、歯などは、装飾品や薬として、違法に取引されている現状にあります。現在、この森に生息するジャガーはたったの300頭ほど。そのうち3分の1は保護され、イグアス国立公園内で暮らしていますが、他のジャガーたちは、密漁の危険に晒されており、危険な状態だといえます。
ジャガーだけに限らず、ラテンアメリカやカリブ海地域では、野生生物の個体数が、ここ数十年で94%も減少しているのだそうです。
各地で進むスマートシステムの導入とデジタル監視ツールの開発
こうした経緯もあり、国立公園のスタッフや研究者たちは、被害の拡大を防ぐために、スマートシステムの導入を開始しました。2000年代初頭まで、手書きの書類で行っていた報告書も、タブレット端末などで簡素化し、さらに地理情報システムや空間監視などのデジタル監視ツールも活用。
その結果、散弾銃が使われた場所の位置情報を記録し、密猟者が利用している道を把握しやすくなったり、密猟に使われる果樹の位置や実がなる時期を記録し、パトロールの計画が組みやすくなったりと、業務効率も向上しました。ちなみにアルゼンチンでは、50ある自然公園のうち、20がスマートシステムを導入済であり、2024年初頭までにすべての公園への導入を目標にしているそうです。
その他にも、密猟活動の予測マップ実用化も進めており、現段階で信頼性が82%まで到達したとのこと。実用化にたどり着ければ、多くの野生生物の命を救うことができ、密猟被害の大幅な減少につながるでしょう。
密猟を阻止するために。急がれる対策
密猟を減らすためには、地球上に存在するすべての自然公園や施設に、スマートシステムを導入することが理想です。しかし、費用面や技術者の確保など、課題はさまざま。政府や保護団体が、どのように知恵を出し合って乗り越えていくのかを注視しながら、決して他人事にせず、自分たちでも何かできることはないか、しっかり考えていきたいですね。
Reference:
IUCNレッドリスト|IUCN日本委員会
2023年版レッドリスト発表 絶滅危惧種におよぶ気候変動の脅威が明確に|WWFジャパン
国際自然保護連合日本委員会Instagram
ブラジル大西洋岸森林(マタ・アトランティカ)の生態及び保全|山添源二 豊田貴樹 著
Digital monitoring tools are helping rangers protect wildlife in South America’s Atlantic Forest. Could sound-based maps pin down the poaching threat?|BBC Future
Text:Yuki Tsuruda