社会に対してアクションを起こしている10代が、人生の先輩に聞きたいことをぶつけるという新シリーズ。初回ゲストは、“先入観に縛られないニュートラルな視点”を届けるメディア『NEUT』の編集長・平山潤さん。続いての質問者は、起業家でアクティビストの中村京香さん(18)です。
フェミニズムを軸に活動する中村京香さんが抱いているモヤモヤをぶつけます!
高校時代よりフェミニズムに関心をもち、「Neo Feminism」などのイベントを企画するNGO団体「imi」に所属する中村京香さん(18)。最近では異文化理解を推進すべく合同会社「azmy」を立ち上げたが、いずれの活動においても、「自分に対して発せられる意見に、加害性を感じる機会が多い」というモヤモヤを抱えているそう。
起業してから、悪い大人(!?)に関わることが多いんです。
中村:今日は1個、絶対聞きたいと思っていた質問があって。
平山:なんだろう(笑)。どうぞ。
中村:最近、悪い大人に会うことが増えているんです。いわゆるセクハラ・パワハラ的なことをしてくる人とか……。
平山:それは良くないね……。
中村:それ以外でも、平気で人の心を踏みにじるような人にも出会います。っていうのも、起業してから、いろんな人を紹介してくれたり、繋がれたりするような、ビジネス面で頼れる大人が集まるコミュニティに入っていったときに、そこにいるのって男性ばかりなんですよね。どこに行っても。
平山:そっか、そうだよね。
中村:そこでよく投げかけられるのが、「多様性って必要なの?」「それって儲かるの?」っていう言葉。私はお金を生み出しつつも、CSVのように社会問題の解決につなげたい、という思いが強いんですけど、資本主義社会の中だと、教養や理念よりも、利益至上主義だとすごく感じていて……。
利益主義で生きていることは悪いことではないと思うんですけど、そういう人たちばかりが社会の中心にいても、いつまでも社会変革は起こらないかなって。
だから、その人たちに、フェミニズムとか、異文化理解を推進することを第一とする私の事業の話を、どう噛み砕いて説明していけばいいんだろうって悩ましくて……。
平山:悪い大人というか、日本の中で自分が特権を持っているのに、それを自覚できていない男性たちっていう感じかな。そうだとしたら、相手にも、自分自身のマイノリティ性を考えてもらうような会話ができたらいいのかもね。
中村:世界的に見て男性は、生きているだけで危険を感じたり、挑戦する機会が不当に奪われたりすることがほとんどないと思うので、本当に特権的なことだと思います。
平山:ぼくもシスヘテロの、日本で生まれて、日本の神奈川県で育った男性だから、もしもアメリカのカリフォルニア州に留学していなかったら気づけなかったことって、たくさんあると思う。アメリカに留学して、アジア人というマイノリティとして見られるようになって、何もしていないのに水をかられたりとか、韓国人の友達が卵を投げられたりとかして、初めて差別にあった。
でも日本でずっと過ごしてきたら、そういうことはまずないじゃん。だから、日本の中で特権を持っているような男性の人たちの意識を変えることはすごい難しい。
中村:ホントそうなんですよ……。
平山:だけど、「日本で女性が受けている差別や苦しみ」という直接的な伝え方だけでなく、「男性の中で男性が受けた差別や苦しみ」というストーリーも一緒に伝えると、ピンと来る人もいるのかなと思う。
でもぼくだったら、今の話とかをして「何もしないのに性別や年齢や肩書きなどから差別とか攻撃されるっていうことがいっぱい起こっているんですよ」っていうのを伝えると、少し理解してくれるかなと思うけど、中村さんが大人の男性に伝えるってなると、難しいよね。
いい答えが言えなくて申し訳ないけど、ここはそれくらい、すごい難しい課題だと思います。
「建設的な批判」は、もっとする社会になるべきでは?
中村:アクティビストとして、あまり世の中で知られていない主義主張をすることもあるのですが、こちらが攻撃性を持っているように受け取られることも少なくなくて……。
私からすると、逆に無知であることによる加害性というものがあるのですが、それを自覚せずに、他人事と感じている人が多いように感じます。良い社会にするために誰かが発した「建設的な批判」と向き合う気持ちをみんなに持ってもらうためには、どうしたらいいでしょうか。
平山:日本だと「完璧に知ってなきゃいけない」と考える風潮があるから、知らないことから目を逸らしてしまいがち、ってところはあるかもね。
中村:メディアって、批判する立場にならなければいけないときもあると思うんですけど、批判をするうえで気をつけていることってありますか?
平山:NEUTは批判というよりは、こういう人がいるよっていうことを届けることを目的にしてるんだよね。まぁ、その人を紹介するときに、批判対象となってしまう人もいるかもしれないけど。
直接的な批判だと感じさせる言葉ではなく、すっとその人の心に入り込むような“人”自体の紹介から入ることによって、最終的には知ってほしい言葉に、自主的に辿りついてもらえたら、と。すごい遠回りではあるんだけど、ザ・マス的な日本人は、直接的すぎる言葉だと、耳をふさいじゃったりするから。
社会問題的なワードでラベリングせず、中身でもビジュアルでもいいから、まずは個人として「この人気になるな」「かっこいいな」と思ってもらう。で、その人の奥にあるのがフェミニズムかもしれない。イシューから入るんじゃなくて、人への興味から入るっていうのが、自分事にしてもらいやすいかなと思っていて。
真面目にフェミニズムのことだけを話すと構えちゃう人もいるだろうから、もっといろんな自分の側面をオープンにしていくのもいいかもね。「中村さんが話すフェミニズムなら聞いてみよっかな」って思う人が増えれば増えるほど、中村さんの存在価値ってどんどん大きくなると思う。
でももちろん、直球に問題に対して声を上げる人の存在はすごく大事だし、歴史を振り返ればそういう人たちのおかげで今がある。そういうことも理解したうえで自分にあった方法で発信するのがいいのかもね。
コミュニティの閉塞感とフィルターバブル・・・解消する方法はある?
中村:以前、所属している「imi」という団体で「外見至上主義に向き合ってみた」っていうタイトルの、ルッキズムとフェミニズムをテーマにしたイベントをやって。そのときに、コミュニティのアフターフォローについてすごい思い悩んだんです。
イベントには、まったく興味がない人というよりは、ある程度興味がある人が、仲間を見つけたり共有したりしたいって想いで集まるから、どうしてもそこに怒りとか悲しみみたいなものが多く入っていくんです。フェミニズムとかだと、特に傷ついた経験から知ることが多いから。
平山:うんうん。
中村:そこから社会を変えていくには、興味がない人への発信も必要になってくると思うんですけど、コミュニティがどんどんマイノリティに強い関心のある人だけに閉ざされて、いわゆるフィルターバブルがかかっていっているような気もして……。
平山:前提としてぼくが思っているのは、実はコミュニティとメディアって、全然違うものってこと。コミュニティなんて閉じていて当たり前だと思うし、流動的なものだから。だって、コミュニティをつくるっていうのは、同じような意見とかマイノリティ性を持った人たちが、安全にいられるセーフティースペースをつくるっていう目的じゃない? だから、フィルターバブルを良くないことと考えず、一貫性のある輪郭をつくっていると思ったほうがいいと思う。
中村:平山さんも、そういう意識を持ってNEUTを運営しているんですか?
平山:マスメディアのようには大きくない今の規模感のせいもあって、『NEUT』って「コミュニティでありメディアである」みたいな見られ方もするんだけど、ぼくの中では、『NEUT』はあくまでメディア。
価値観や輪郭が整っているメディアに集まっているから、出演者も含め、なんとなく同じようなスタンスの人たちだよね、っていう意味で、コミュニティと括ることはできるかもしれないけど、出演者同士が知り合いかというとそうとは限らないから、ぼくの中では明確に区別をつけていて。
中村:なるほど。
平山:たとえば、閉じてるLGBTQIA+のコミュニティをいきなりメディアにしたら、批判やアンチコメントが来るかもしれない。それをわざわざやる必要はないと思うんだよね。だって、傷つくだけだから。
どういうコミュニティの人たちのことを、どう発信していくのか、それを考えるのが編集者の役目だと思うし、そういう人たちが傷つかずに理解してもらうために動くのが、アクティビズムだと思う。
だから、コミュニティはコミュニティで、閉じていていいんだと思うよ。……答えになってるかな?(笑)
中村:スッキリしました。ありがとうございました!
3人のティーンによる、ときには難しい相談にも真っ直ぐな目で答えてくれた平山潤さん。相談を終えたティーンはなんだか取材前より、自信に満ちているようにも見えました。
今後も、いろんな分野で活躍する先輩に、ティーンが会いに行きます。お楽しみに!
平山潤さんプロフィール
1992年神奈川県生まれ。『Be inspired!』の編集長を経て、現在は「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトに発信するWEBメディア『NEUT Magazine』の創刊編集長、本誌を運営するNEUT MEDIA株式会社の代表を務める。
今回登場してくれた10代
中村京香さん(18歳)。大阪府出身。ニュージーランド留学を経て、横浜国立大学に入学。高校時代よりフェミニズムに関心をもち、『Neo Feminism』などのイベントを企画するNGO団体・imiに所属。また異文化理解を推進すべく、合同会社azmyを立ち上げた。
Photo:Goku Noguchi
Text:Ayuka Moriya
Edit:Takeshi Koh