シリーズ「あの人に聞く、“私の10代”」。今回迎えたのは、ガールズロックバンド・SILENT SIRENのベーシストで、絵本作家の顔も持つ山内あいなさん(33)。
ジャンルの異なるファッション誌で読者モデルをしていたメンバーが集まって結成したバンド、SILENT SIREN(通称「サイサイ」)。メジャーデビュー後、ガールズバンド史上最速で武道館ライブを実現させ、アジア・アメリカをまわるワールドツアーも開催。その後も音楽・ファッションを中心に、ガールズカルチャーを牽引してきたが、2021年12月、惜しまれながら活動を休止した。
それからまだ数か月だが、初めて迎えた春。いま、何を思うのか? 音楽活動の原点となる10代を振り返りながら、語ってもらった。
高校デビューに失敗?
高校時代から読者モデルとして活躍し、大学時代にはミス桜美林グランプリにも輝いた山内さん。10代は輝かしい記憶ばかりなのかと思いきや……。
「後悔することも、けっこうありますよ。もしいま私が10代に戻ったら……まず黒髪にして、制服を正しく上品に着たい。そうしたら、こういう取材のとき、当時の写真を堂々と出せるじゃないですか。とてもじゃないけど、出せないから(笑)。
高校が自由すぎる校風だったし、思春期特有の反抗心もあって、自分で切ったジャージをスカートの下に重ねて履くような、ちょっと汚い着こなし方をしてたんですよ。髪もいろんな色に染めてたし。
忘れもしないのが、高校デビューのために、美容院で『カラー・カット・パ―マ全部で5000円』っていうコースをお願いしたこと。結果、髪の毛が爆発して、高校デビューは大失敗(笑)」
ちょっとやんちゃでありながら、楽しそうな高校時代を過ごしていた山内さん。ちなみに、中学時代は?
「実は、あまりいい思い出がないんです。バスケ部だったけど、6人しかいないのに試合に出られず、私だけいつもベンチ。自分に自信がなくて、いつも誰かを見ながら、『あの人みたいになりたいなぁ』って思ってました。
あ、この話は私の絵本デビューにもつながってくるから、あとでもっと詳しく話すね(笑)」
カラオケからスタジオへ。バンド活動の第一歩
そんな中高時代の山内さんが、放課後や休日によく足を運んでいたのがカラオケ。当時はどんな曲を歌っていた?
「中学のときはJ-POPを聴くことが多くて。浜崎あゆみさん、Every Little Thingさん、倖田來未さん、aikoさんをカラオケでよく歌ってました。『○時間パック』みたいなプランでずーっと歌って、帰りにプリクラを撮るのが当時のルーティーンでした」
ロックではない音楽を楽しんでいた中学生の山内さん。バンドを始めたきっかけは?
「高校2年生のころかな、2個上のお兄ちゃんがバンドを始めた影響で、私もベースを弾き始めて。それから“ガールズバンド”というものを知って、『バンドって女の子がやると、めっちゃかっこいいじゃん』って思ったんです。かわいさと強さが両方あって、かっこいいなって」
そして地元でバンドを組んで、音楽活動をスタート。山内さんが歌う場所は、カラオケからスタジオへとかわった。
「椎名林檎さんや木村カエラさん、GO!GO!7188、チャットモンチーをコピーして、演奏しながら歌ってました。地元の小さなオーディションを受けて、ライブに出たりとかも。
でも、プロになるってことは考えてなかったなぁ。よく行くライブスタジオの店長さんにアドバイスをもらったりもしたけど、全然褒められることがなくて……。やっぱり厳しい道なんだなって思いながら、大学に進むことに決めました」
「辞める」じゃなくて「休む」という選択
その後、大学時代のアルバイト先でSILENT SIRENのメンバーと出会い、夢にも思わなかったバンドとしてのプロデビューを果たした山内さん。ガールズバンド史上、最も早く武道館ライブを成し遂げ、翌年にはワールドツアーで世界進出。約10年間にわたりトップランナーとして走り続けた。そして2021年末をもって、活動を休止。
「『活動休止』って、悲観的に聞こえるかもしれないけど、『解散』じゃないという意味では、ポジティブなこと。終わりっていうわけじゃないから。
私は、ときが来たらまたいつか、やれたらいいなと思ってます。私自身はベースが嫌になったわけでも、サイサイが嫌になったわけでもない。サイサイは、ずっと私の頭の片隅にあります」
そして、いま夢や好きなことを追いかける10代に対しても、このように続けた。
「10代のときって、何かを諦めると、『それで終わり』みたいに感じちゃうこともあるかもしれないけど、本当に好きなことだったら、一度離れたとしても頭の中にずっとあるし、『やっぱり好きだ、やりたい』って思えるときが来るはず。そこからまた、いくらでもやり直せると思うんだよね。
気持ち、お金、家族とか、いろんな事情で、好きなことを追い続けるのが難しくなったときは、『辞める』じゃなくて『休む』って考えるのも、正解なんじゃないかと思います」
休むことは、自分が本当に好きなものを再確認することにもなりうる……そう話してくれた山内さん。次回は、自分の『好き』を詰め込んでいた、読者モデル時代の話を聞いてみた。(第2回に続く)
Photo:Aoi
Text:Ayuka Moriya
Edit:Takeshi Koh