
中目黒の山手通り沿いにある「Space Utility TOKYO」(以下、SUT)は、複数の機能を持ったクリエイティブな空間。ZINEやアートブックの展示・販売や印刷所など、さまざまな「つくる」を支える場所として店を構えます。
国内外のインディペンデントな出版物が並ぶ棚の奥に、レトロな質感でデータを印刷できるリソグラフ(理想科学工業が開発したデジタル孔版印刷機のこと。鮮やかでレトロな質感が特徴。)があり、この場所の可能性をさらに押し広げています。
読む、集める、そして刷るを感じられるSUTは、出版カルチャーの循環をひとつの空間で体験ができる、実践的な場所になっています。
ZINEでつながる。カルチャーを支える独立書店
もともとはフリーペーパーの集まるスペースだったというSUT。そこから店長の清水さんにとって思い入れのあるZINE(個人や少人数のグループが自由なテーマで発行する自主制作の小冊子)の取り扱いをはじめてからは、ZINEの流行もあいまってクリエイターだけでなく、サークル活動でZINE制作を行っている団体や個人の趣味としてZINE作成したい学生、自分史や旅の記録として制作したZINEを見に来たファンなどの人たちも訪れる場になったそう。

SUTの店長である清水さんは、ZINEの定義を「自費で一生懸命に出版したもの」としたうえで、SUTでは「編集愛」が伝わるZINEを取り扱っているといいます。質や技術に限界があっても「伝えたい」という気持ちがどこまであるか、それが必死に伝わるようなZINEには愛着を感じるそうです。確かにそういった熱のこもったZINEが店内には並んでいるようです。
ここ数年で、ZINEを取り巻く環境も日々変わり続けています。日本各地で開催される「ART BOOK FAIR」や「文学フリマ」、「ZINEフェス」などZINEに関するイベントが数多く介されるようになり、ワークショップやイベントでの体験を通して自由な形式で制作する個人が増えました。幅広く普及していくのに比例して、SUTで取り扱う作品も徐々に増えていきました。それに合わせてSUTも、ただ抽象的にZINEのイベントや展示を行うのではなく、毎月「旅に関する展示」「イラスト展」と具体的にテーマを設定しました。これによってSNSでの反応も増え、展示への応募件数も設定前の約30倍になりました。
清水さんは、もともと個人で台湾に関するZINEの製作もしていました。バラエティ豊かなZINEが並ぶSUTですが、いまの形になる過程では試行錯誤もあったといいます。一番のきっかけは、清水さんの趣味や嗜好とは合わない作品が取り扱いの持ち込まれた際のこと。一見すると、理解ができなかったものの、持ち込んだ作家の話を聞くうちに「好きなものに対する想いは同じなんだ」と気づいたそうです。どんなジャンルでも、「偏愛」を持って作り上げた人の表情が見えるのが作者とやりとりをしているときの楽しみの1つとシェアしてくれました。
ZINE愛のある空間でゆっくりと偏愛を感じるZINEに触れ、ときに作者や店主の清水さんとも交流できるのが、SUTの特徴です。
どんなZINEが集まる?店長の清水さんに聞いてみた。
国内外から他ジャンルが集まるSUTで、ZINEの紹介をしていただきました。
清水さん(以下、敬称略):全てが偏愛で満ち溢れていて、全部を紹介したいのですが、ZINEのいいところは知らない他人や自分が考えたこともないような経験、バックグラウンドの方々の話を堅苦しすぎない形で知ったり、読んだりできるところだと思っています。
日常をどう切り取るかという点で手入れ編集部・著の『手入れ』は読んでいて興味深いです。子育て中のお母さんの作った日記などは、自分が体験できるものではない分、印象に残りました。
中央にある、moto・著『宗教二世をおわらせたい』は同じ理由ですが、到底自分には経験できないような葛藤や心情が表れている作品です。メディアでは一時期よく聞いた言葉ではあるものの、言葉だけが一人歩きしてイメージだけで終わっていたようなものをこうして当事者の方が書いてくれることによってよりパーソナルな話としてより身近に知ることができました。

実家の旅館のなかで生活を送り、一人暮らしをするなんてあり得ないという価値観だった著者。そんな彼女が親から許しを得たのち実際に一人暮らしをする……という話も、やっぱりワクワクしました。普段気になるけど聞きにくい、あるいは聞くまではしないようなことを、人の温度で知れるのがZINEのいいところでもあると思います。
ほかにもたくさんおすすめがあるので、一つひとつじっくりと説明したいくらいですが、ぜひ気になった本は作者のSNSなども通して、背景を読んだり、試し読みなども活用して自分にあったZINEを見つけてほしいです!
制作はもっと自由であるべき! リソグラフスタジオとしても開始。
リソグラフの委託印刷を開始してからは、ZINEが集まるスペースということに加えて、クリエイターと伴走し、データを出力するスタジオとしても知られるようになりました。リソグラフを導入したきっかけは地方の独立書店に行ったときに、目を奪われた本のほとんどがリソグラフであったからだそう。鮮やかなピンク、ブルーから少しズレた印刷はリソグラフ印刷特有の表現。出力の際の手触りや1枚ごとに色のグラデーションが異なる質感に惹かれて導入を決めたと清水さんはいいます。
作者が「自分で全て作りきった」という達成感を持つことも、リソグラフやDIYのZINEを作るときの醍醐味だといいます。印刷会社に委ねることも技術や方法として存在しますが、清水さんは「編集愛」が作品の手法や製本などに表れると、より偏愛が読者に届くと考えています。
とはいえ、データやレイアウト、出力まで工程はさまざまあり、人によっては少し難しいと思うポイントも存在するので、

やっぱりはじめは不安。お金を出して作ったとしても、満足ができる仕上がりにならないと、そこで作品制作をやめてしまう人も多くはないそうです。それならば最初のステップは印刷を委託して、相談しながら丁寧に仕上げるというのも方法の1つ。お店に来店し、清水さんやスタッフの方と相談しながらデザインや形を決めていくことで安心してデータを印刷することができるというわけです。
ここ数年では国や地域を超え、観光やビジネスと同時にZINEを買い求める方が来店したり、ZINEの持ち込みもあるそう。
「ZINEは自由なもの」と清水さん。
毎日の中に溢れる新たな気づきをを得られるZINE。だれかの偏愛視点は、毎日をちょっと変化させるかも。そんなきっかけがつくれるZINEと出会う場所として、これからもSUTは「つくる人」に開かれたスペースとしてあり続けます。
今回訪れたのは
SUT(Space Utility TOKYO)
アクセス・詳細
東京都目黒区中目黒3-5-3
東急電鉄・東京地下鉄 中目黒駅から徒歩8分
営業日:
水木土:12:00-18:00
金:12:00-21:00
日祝:12:00-17:00
月火:休み

Instagram:
https://www.instagram.com/space_utility_tokyo/
Text・Interview
kai






