
日常を切り取る、小さなイラストスタジオ
中国では昨今、若い世代を中心に生活の質を重視する人が増え、アート作品にもお金を払おうとする傾向が見られます。こうした流れは上海のような大都市にとどまらず、各地方都市にも徐々に広がりつつあります。人々のニーズに応えるかたちで、新しい雑貨ブランドやインディアーティストたちも、アート市場に可能性を見いだし始めています。
中国・武漢の住宅街にある Noema Studio(以下、Noema)は、イラストレーターのKatie Fuさん(以下、Katieさん)が立ち上げた、「コレクション可能な日常」と「可視化される意識」をテーマにした小さなイラストスタジオです。多元的なアート空間として、イラストの原画などの販売のほかに、ワークショップやイベントも展開しています。
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Katieさんは、水彩ならではのやさしいタッチで、イラストを描いています。作品はグッズや絵本として展開され、日常にそっと寄り添うような世界観が魅力です。Noemaでは自身の作品に加え、他のイラストレーターによるアイテムや、Katieさんがセレクトしたお気に入りの絵本も並びます。
日差しがきれいに映る水色のカーテンを目印に、可愛いイラストが描かれたガラス扉を開けてスタジオへ入ります。正面の机には原稿や本がずらり。ここがKatieさんのワークスペースだそうです。部屋の中央には、透明なローテーブルといくつかのソファチェアが配置されています。その日の午後には、ここで手製本のZINE(自主制作の雑誌)のワークショップが開かれていました。

描きながら探す、自分のスタイル。
イベントが終わった後、Katieさんにお話を伺いました。
店名にはどんな由来がありますか?
「Noema」は、西洋哲学の考え方に由来しています。「Noe」はギリシャ語で「思考」や「意識」、「ma」は「結果」をそれぞれ表していて、「意識から生まれる意味」といった意味になりますが、来てくれた人それぞれが自分なりの受け取り方を見つけて、その体験を大切にしてほしいです。
Kaiteさんは主な表現手法として水彩が選ばれたのでしょうか?
2022年にイギリスのグラスゴー美術学校( Glasgow School of Art /以下、GSAと記載)でイラストを学び始めたころは、クレヨンや色鉛筆、紙のコラージュなど、いろいろな画材や手法を試しました。そこでいちばんしっくりきたのが水彩でした。思い浮かんだイメージを、すばやく、自由にそのままキャンバスに出せるところが好きです。
とにかく、日ごろからたくさん描いていて、思いついたらすぐに描きとめるようにしていて。街で見かけた人や犬や風景……それに、好きな映画のシーンもよく描くのですが、『風にそよぐ草原』や『花様年華』、『桜桃の味』は特に好んで模写しています。

制作をする上でいちばん大事だと思うことは何ですか?
構想だと思います。描き始める前に、絵本のストーリーの流れや、構図、登場人物の設定、物語としてちゃんと成立しているかなどをじっくり考えます。考えている時間のほうが長くて、描くのは制作の最後の段階です。
絵本『eno』が描く、子犬と癒しの物語。
これまでの制作活動の中で、特にご自身にとって大きな意味を持つ作品はありますか?
絵本『eno』ですね。この作品は、バーニーズ・マウンテン・ドッグのenoが、家を離れることへの不安を乗り越えていく物語です。家の仲間たちに相談しながら、困ったときに助けを求めることを学んでいきます。やがてenoはひとりで外の世界へ踏み出し、その多様さに触れながら、自分らしさや価値に気づいていきます。読者に、変化を受け入れること、自分の中の強さを見つけること、そして好奇心と自信をもって世界に向き合うことをやさしく伝える一冊です。
犬がたくさん描かれていますよね。
犬がとても好きなんです。『eno』はGSAでの卒業制作なのですが、主人公を決めるときに、人間にすると年齢や性別によって共感できる人が限られてしまうかもしれないと思って。最終的にバーニーズ・マウンテン・ドッグにしました。性格が穏やかで、誰とでも友だちになれるところがいいなと思って。
絵本のコレクションからはじまった。中国の読書習慣。
本を読まなくなる人が増える中で、なぜ絵本の貸し出しサービスを始めようと考えたのでしょうか?
いいものに触れるきっかけを、もっと気軽につくりたかったからです。本を手に取る人が減っている中で、ただ“売る”だけじゃなくて、空間としての雰囲気や体験も大事にしたいと思っています。絵本の貸し出しは、そのひとつの方法でした。
気になる一冊をふと借りてみる。その小さな行動を演出することで、読む習慣や好みを少しずつ育てていくんじゃないかと考えています。
中国の消費者には、商品を購入する際の消費傾向や好みがありますか?
ステッカーやポストカード、キーホルダーなどの小物は、たくさんのお客さんに人気です。他にも防水ナイロンバッグが、特に売れ筋のアイテムです。

店全体の雰囲気は、夢のようで少女らしさも感じられますが、居心地の良い空間になっています。なぜこのような空間デザインや雰囲気が選ばれたのでしょうか?
もともとは、グラスゴーにあるセカンドハンドマーケットや古着屋からインスピレーションを受けています。少し雑多で、ちょっと古くて、でもどこか生活の気配があって落ち着ける、そんな空間がずっと好きです。ここも「お店」というより「気軽にいられる場所、どこか家のような、あたたかくて肩の力が抜ける空気感」を目指しました。
その一方で、視覚的にはある程度の豊かさやインパクトも大事にしています。いろいろな物や色、レイヤーが重なり合って、来るたびに新しい発見があるような。そうした要素を少しずつ馴染ませていくことで、それぞれがちゃんと存在しながら、ひとつの空間として自然にまとまる。自由さとまとまり、そのバランスが心地いいと感じています。
Katieさんおすすめの絵本
最後にKatieさんにおすすめの絵本を聞いてみました。
Laura Carlinさんの『London: :A History』です。山水画などの中国伝統絵画で特に見られる、中国伝統絵画でよく用いられる特徴的な空間表現技法である「散点透視」を用いて、ロンドンの歴史をゆるやかにたどります。

今回訪問したのは
「Noema art studio」
アクセス・詳細
Room 104, Unit 1, Building 20, South Area of Wansong Residential Community, Jianghan District, Wuhan, Hubei Province, China
営業日:
月曜日定休
13:30〜19:00
Red note:
@Noema Studio
@KatieFu
Instagram:
@k9t1e
Website:
https://katief.cargo.site/

Text・Interview
kii






