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スマホではたどり着けない音がある。「神保町試聴室」の息遣い【B面カルチャー探訪】

スマホではたどり着けない音がある。「神保町試聴室」の息遣い【B面カルチャー探訪】

音楽、映画、アート……。ふとしたディグで、まだ知られていない“良いモノ”に出会って人知れず興奮する。まさに、自分の手で掘り当てる喜びこそ、カルチャーを楽しむ醍醐味のひとつですよね。

厳しい冬の寒さを抜け、春の訪れを感じる今日この頃。おうちにいても、ゆっくりサブスクの配信をチェックしたり、読書を楽しんだり……指一本で簡単に面白いものにリーチできちゃう時代。だけど、ちょっとどこかに足を運んで肌で感じたカルチャー体験ほど特別なものになるはず。

ということでこの企画では、知ってたらなんだか誇らしい、 ポップカルチャーやメインストリームの裏側にある“B面的”なカルチャーの世界を探訪していきます。
第2回では、出版や喫茶など、古くからの文化が息づく街、神保町にあるライブハウス『神保町試聴室』にお邪魔しました。


古くから大学生の街として発展し、古書店や出版社、喫茶店などが軒を連ねる神保町。昨年、シティガイドのタイムアウトによって「世界一クールな街」に選出されました。駅から水道橋方面に歩いた先にひっそりと佇む、ここ『神保町試聴室』。いわゆる一般的な「ライブハウス」という言葉から連想するイメージとは、少し趣が異なる不思議な魅力を持つ空間です。

まず、店内に入ると目に入る、温かみのある木の床は、以前この場所にあった「スタジオイワト」という展示・イベントスペースの内装をそのまま引き継いでいるんだそう。さらに入り口にある『試聴室』の文字は、著名な装丁家の平野甲賀氏によって手がけられた看板だとか。派手な装飾はないものの、そこにあるもの一つひとつに静かなカルチャーの息遣いが感じられて、静かにテンションが上がります。

ライブハウスでありながら、箱としての方向性はあえて決めずに、スピーカーも小さめに設定しているそう。ステージ……というより「前方のスペース」にドラムセットは置かれているけど、アンプでガーンと鳴らすような激しい演奏には向いていない。キャパシティも、指定席を設けず椅子を出した状態で、なんとか50名弱。ライブハウスとしては制約だらけに見えるこの場所は、「それでもこの空間がいいんだよね」って言ってくれる出演者によって、それそのものが魅力として成立しているってわけです。

カフェ、アートイベントを経て神保町へ。

オープンから11、12年ほど経つという『試聴室』ですが、店主の根津さんはもともと代々木上原で音楽が聴けるカフェを営んでいました。実は根津さん、ご自身を「プロのリスナー」と称するほど、生粋の音楽フリーク。かつては私物で1万枚ものCDを所有していたといい、この代々木上原の店舗では、お客さんがその1万枚のCDから好きなものを選んでカフェスペースで聴ける形態のお店だったそうです。「ヘヴィメタルと演歌以外はなんでも聴いた」という根津さん。マイケル・ジャクソンやマドンナといった世界的スターのライブから小さな会場の生演奏まで、無数のライブに足を運んできました 。

そんな根津さんは、高校時代から5年間、当時神保町にあった貸しレコード屋でアルバイトしていたんだそう。もともと土地勘もあったことに加え、彼の「プロリスナー」としてキャリア黎明期に過ごした神保町に、いつかお店を開きたいという思いを叶え、現在の場所にこの試聴室はオープンしました。そんな音楽を愛する店主がいる空間だからこそ、ジャンルにとらわれず、そして確かなアーティストたちがこの場所を選び、音を奏でているのです 。

スマホひとつで音楽が聴ける時代に、あえて「生」を体験する意味

現在、『試聴室』の客席を埋めるお客さんの多くは「おじさま世代」。10代や20代はまだ珍しい。同世代のコミュニティの先細りに危機感を抱きつつも、取材日の前日にライブしたのは20代だったそう。

「めちゃくちゃうまいよ! びっくりするくらいうまい」とそのプレイを絶賛しつつも、スマホひとつで音楽や娯楽が手軽に無料で手に入るどころか、スマホひとつで音楽がつくれる今、若いプレイヤーがあえてライブをやる理由、そして、『試聴室』が若い世代とどう繋がればいいのか、模索している最中だとか。

最後に「どんな場所を目指していますか?」と尋ねると、

「自由な場所をつくりたい。録音されたものも面白いけれど、生で見ないとわからないこと、生ならではの楽しさが全然違う。若い人たちが来て、面白いことをやってくれる方が絶対に楽しいので、ぜひ来てほしい」と根津さん。

「プロリスナー」が選ぶ音楽を生で“試聴”することで、サブスクのアルゴリズムではたどり着けない出会いが、ここにはあるのかもしれません。

今回訪れたのは…

『神保町試聴室』


住所:〒101-0065 東京都千代田区西神田3-8-5 ビル西神田1階
営業時間:各ライブ/イベントの時間に準じます
定休日:不定休
最寄駅
東京メトロ半蔵門線、都営新宿線、都営三田線 神保町駅 徒歩5分
JR総武線、都営三田線 水道橋駅 徒歩5分
東京メトロ東西線 九段下駅 徒歩7分

 

 

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Yui Kato

エディター

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