
東京・荒川区の住宅街にひっそりとある「独角放送室|Unicorn Image」。中国をはじめとした国と地域で作られたインディー映像作品と出会えるだけでなく、観客同士が交差し、シナジーが生まれるミニシアターになっています。 型破りで新鮮な映像体験があなたを待っているかも。
中国・広州発・荒川のインディー作品映写室で。
荒川区・西尾久という、決してアクセスが良いとは言えない場所に「独角放送室|Unicorn image 」はあります。わざわざ足を運ぶ理由は、ここでしか観られない作品、ここでしかできない体験があるからです。
オーガナイザーの緑さん、アインさんは個人制作された作品の上映やイベントに合った映画の上映とそれに関するトークイベントやワークショップなどを開催しています。インディー映像に関心を持つ人たちがこの場所を訪れ、時にはイベントの企画者として関わったり、最近は若手の映画監督や東アジアの作品に関わる人たちも訪れたりする場所になっています。
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放送室の変遷と東京・荒川での再スタート
幼い頃から父親がブルーレイのレンタル店を営んでいたことから海外のモノクロ映画に親しみがあったオーガナイザーのアインさん。映画上映などのイベントの仕事をしていた緑さんとアインさん自主開催の映画祭をきっかけに二人は出会い、「独角放送室|Unicorn Image」として活動を開始しました。
アイン:「放送室」は日本の単語で、中国にはない単語。 単語がわかる人にしかこの場所が何を行う場所なのかわからないという言葉特有の「ズレ」が面白いと思って採用しました。そういう「ズレ」の面白さは映画でも同じで、同じ作品を観ても面白いと思うシーンや感想は人それぞれ。時に作者の意図と違うこともあるけど、その「ズレ」も面白いと思っています。

「独角 Unicorn」は村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』という作品から取っています。作中で、ユニコーンの頭骨は「“夢と記憶の容器”としてあり、街で保持できない個人の内面の記憶をユニコーンの頭骨で蓄積・外部保存する」という構造が説明されていますが、まさにフィルムと同じ性質を持っていると思い採用しました。
―中国国内での活動が困難になった際、東京を再出発の地として選んだ最も大きな理由は何ですか?
緑:日本は地理的にも近いですし、「独角放送室|Unicorn image 」がOPENする前から渡航予定を立てていました。特に日本の60-70年代のアンダーグラウンドな音楽や映画にも関心があったので、コロナ期間が開けてから7ヶ月ほど日本に滞在しました。
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2025年2月、「独角放送室|Unicorn image 」が始まってから2周年を迎えようとしていた時のこと。広州を拠点に映写室の本格的な運営を考えていた矢先に、映像全般の上映活動に規制がかけられてしまいました。当時上映していた中国の進学試験に関するドキュメンタリーが中国のSNSプラットフォーム「小紅書」の関連投稿で人気になったことが発端でした。その後、翌3月1日には「独角放送室|Unicorn image 」を閉め、広州での活動を休止することになりました。
緑:結果は悔しかったし、悲しかったけどまたすぐに再開させたかったから縁のある日本で活動の再開を決めました。今の場所は大体2週間ほどで見つけて再オープンしました。

アングラ・ストリートから下町へ。何が変わった?
―広州での活動と、現在の荒川区での活動を比較して、観客層やイベントの反応など、特に違いを感じる点はどこですか?
緑:中国・広州の時は路面沿いで通りがかりでもフラッと入れるのもあり100〜200人がイベント毎に来ていました。広州は亚逼(※)なカルチャーもあったので、アンテナを張っていた人が多く来てくれていました。
※サブカルチャーやアンダーグラウンドを示す中国のスラング。蔑称的なニュアンスも持つことがあるので注意
アイン:ただ、LGBTQ+の映画や社会的な映像に関心や理解があるわけではなかったり、その場に居合わせたお客さんとも一緒に観ることもありました。当時は他人と映像作品の感想を語ったり、社会と照らし合わせて考えるっていう文化が広州にはほとんどなかったので、探り探り映画を観て、語って考えるという習慣をみんなで創っていきました。「映え」だけでは心は寂しいので……。
緑:東京に拠点を移してからは、主に東京に住む中国ルーツの人や中国の文化や政治、社会に関心のある人が映画を観て、それぞれが語り合うために来るようになりました。
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人や文化がより身近になったからインディー映像文化を知りたい人も来るし、来たばかりの人たちが繋がって情報を得たり友だちを作る場としても機能していて「こういう場所は必要だ」と言ってくれる人たちも多いです。
―今「独角放送室|Unicorn Image」が観客に提供する価値は、どのような点にあると考えていますか?
アイン:今は荒川区で都心からはやや離れているので、ちゃんと映画を観たい人たちが来てくれます。そういう人たちとは映画の話も面白く対話できるし、友達にもなれるのがいい。

『漂亮朋友 bel ami』上映会 渋谷ユーロライブにて
緑:私たちがここで映像を観るためのチケットを安くしてハードルを下げているのは、この場所だからというのもあります。コミュニケーションできるのは醍醐味だし、映画と対話はセットだと思っています。
インディー映画がもたらす価値と繋がり
今後、「独角放送室」として、どのような作品や新しい挑戦を計画していますか?
緑:昨年、上映イベントを浅草のホテルで開催しましたが、今年も上映イベントを開催したいと思っています。荒川が近いので、身体を動かすようなイベントがやりたくて、オリジナルフリスビーを作りました(笑)。広州でも今、フリスビーが流行っているので、参加者で遊んだりするのも面白いかなって。(イベントは終了)
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アイン:今は新作しか上映していないのでこれからは権利なども交渉して70〜80年代などの古い映像なども上映できたらいいなと思います。
二人に教えてもらったおすすめの映像作品。
最後に、オーガナイザーの緑さん、アインさんにそれぞれお気に入りの作品を聞いてみた。
アインさん:『他們是肉做的 肉是什么做的(日本語訳:それらは肉でできている)』(2020)
かつて私たちが映画館で上映した作品です。上映時間はなんと8時間。観客の皆さんと一緒にマラソン上映という形で体験したのが新鮮で忘れられません(笑)。我々が扱う作品の規模は群像劇的なものが多い中で、本作は宇宙を超えるようなスケールを持っています。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、観る人の神経に直接触れるような力があります。

緑さん:『四部香港實驗短片 Four Experimental(日本語訳:四つの実験的短編集)』(2021~2023)
香港をルーツに持つ人たちによって制作された4つの短編集です。イベントで上映したのですが、その日の会場には、香港人、日本人、台湾人、中国人、シンガポール人など、さまざまな背景を持つ人たちが集まり、それぞれが自分の困難や希望について、オープンで対等に語り合うことができました。みんな戦争はしたくないはず。未来は誰にも分かりませんが、だからこそ、共有する時間や場面は貴重です。なぜなら、私たちが向き合っているのは、抽象的な立場ではなく、目の前にいる「具体的な人間」だからです。そう思わせてくれるような作品でした。

アクセス・詳細
東京都荒川区西尾久2丁目40-18 エイビル 2F
都電荒川線「宮ノ前」駅から徒歩1分、都電荒川線 「熊野前」駅から徒歩5分、JR山手線「田端」駅から徒歩20分(※Google Mapで「独角放送室」と検索)
料金システム:ワンドリンク ¥500~¥800/カンパ制(※現金 またはPaypay)
営業日:Instagramにて確認
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