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自分らしくあるっていったいなんだろう。Z世代がNetflix『クィア・アイ』出演のKanさんと考えた Steenz×Tinder Japan Talk Event(後編)

自分らしくあるっていったいなんだろう。Z世代がNetflix『クィア・アイ』出演のKanさんと考えた Steenz×Tinder Japan Talk Event(後編)

Tinder Japanにて公開されている、アプリを通じて出会ったカップルのストーリーを紹介する特集記事「Swipe Story」に、国際カミングアウトデーを記念したストーリーが追加されました。これをきっかけに、Tinder JapanとSteenzがタッグを組んで、「自分らしくいるためのケア習慣やジェンダー、セクシュアリティをフラットに話してみること」をテーマにオンライン対談イベントを実施。

ゲストには、「Swipe Story」にてご自身とパートナーとの出会いが公開され、Netflix番組『クィア・アイ in Japan!』への出演でも知られるKanさんを迎え、Steenzのユースとの対話を通して「自分を大切にすること」や「他者と関係を築くこと」について考えていきました。本記事では対談イベントの​​後編をお送りします。(前後編の後編。前編から読む)

暮らしの中で「自分を大切にする」って?

Kan:クリエイティブなことされてる皆さんに、制作する上でどういう風にインスピレーションを受けてるかっていうのと、あとは向き合い方について聞いてみたいです。何か出てくるまで待つのか、それともとりあえず机に向かったりペンを走らせるかなど、ルーティーンみたいな流れみたいなものもあれば聞きたいです。

Photo: Aleksandar Dragicevic

Nagi:僕は作詞と作曲をやっているんですけど、自分の場合、お仕事でもらう作曲と、バンドでやる時とではやり方が違います。前者は相手から渡されたテーマやお題にいかに添えるか。オーディションやコンペ形式みたいなのがあったりすると、相手の意図を汲んで、どうやったらたくさん聞いてくれるか、商業的に成り立つか?という観点で考えてました。一方でバンドの方は自分の関心を反映させやすくなるので社会風刺というか、皮肉を織り交ぜたものが生まれやすいです。社会情勢とか、映画からインスピレーションを受けることもあります。映画のこのシーンでこういう音楽が流れたらかっこいいなとかも考えて視聴してますね。

Kan:すごい…!そういうふうに映画を見たことがなかったから、やっぱり音楽を作る人ならではの見方だなって思いました。

Rinako:社会から取り入れるのは私も同じです。少しズレるんですけど、Kanさんは日々の暮らしで人とのコミュニケーションや社会問題などに触れる中で傷ついた時にどうやって立ち直っていますか?心の支えになってる考え方などもあれば教えて欲しいです。

Kan:対人関係で傷つくことは日常でありますよね。傷つきの度合いにもよりますけど、傷つきの度合いが浅かったらさっきの、自分らしく生活するためのルーティンとかをしてたら忘れちゃう。でも、傷つきの度合いが強い時は、いわゆる「バウンダリー(境界線)」っていう考え方を大切にしてます。急に傷つきそうなことに遭遇すると、バウンダリーの概念的なものが抜けちゃうから、しっかり意識するようにしてて。「あなたはあなた、私は私」という考え方の中で、傷ついた時に相手は相手だし、自分は自分だから、僕は傷つきの度合いが強ければ強いほど一度その場を離れるようにしてます。

まず自分のことを守ってあげる。口論の時も、急に言われるとか怒ってしまうこともあるけど、僕は相手のことが嫌いっていうよりも、相手に対して嫌な気持ちになってる自分がより嫌なんです。そんな気持ちにもなりたくないから、まず離れて自分を守ってあげたいなって思います。

カウンセリングを受けるのも重要。自分のことを理解してくれてる人に話を聞いてもらって、思考の整理をするっていうことをしています。とにかくバウンダリーは大事だと多くの人に伝えたいです。

Rinako:ここ1年ぐらい、Xのアプリを消してていたんですけど、そういうものもバウンダリーとして大事だなって聞きながら思いました。

Nagi:今、反LGBTQIA+、反移民だったり、極端な思想が台頭し始めているからこそ自分も鬱々とした気持ちになります。そういう情報も追わないといけないのはわかってるけどやっぱり苦しくなる。

Kan:僕も絶賛悩み中ですけど、やっぱり「誰も取り残さない」という意識を持つことかと思います。日常で見えなくなっているコミュニティや人、事象があることも認識した上で知っていくことは重要だと思います。同時に、“自分”がないと行動もできないので守ってあげることも大切だと思います。境界線の中でできることを探すことが大事。

僕がアクセサリーを作っているのは、そういう新しい繋がりの模索だと作り始めてから気づいたし、例えばSNSで反発する前に本を1冊読んでみて感想をシェアしたり周りの友達と話したりとか。クリエイティブもそうですけど、そういう行動の1つ1つがある種の抗いになって新たな連帯を生み出すんだと思います。

Nagi:うんうん、ちょっと感動しちゃいます。僕も最近だと「フリーパレスチナ」と書いたパッチを日頃身につけるものに貼ったり、そういう自分ができそうだなと思うことはやったり参加したりしています。

クリエイターのルーティーン

Kan:皆さんは自分らしさを保つためにしていることやルーティーンはありますか?

Nagi:正直、僕はルーティーンそのものがわからないのでKanさんほど言語化できてるのがすごいなって思いました。自分がどんな感情でどういう精神状況とか、どうすれば嬉しいかみたいなものがあまりよくわかってなくて。今暗いな、今辛いなっていうのがわかるんですけど、それが来るまでの予兆がわからなかったり。

今21歳なんですけど、そろそろ自己管理について考えないといけない時期だなとは思いつつ、意識したことがあんまりないので、見つけ方に困っています。

Kan:自分の気持ちとかの揺らぎみたいなものとか、特に暗くなっていく予兆を見つける方法みたいなところですかね。僕も結構悩んでいるし、なるべく常にハッピーでいたいですよね。

僕も去年の冬ぐらいに思いっきり気持ちが沈んじゃって「あ、やばいな」ってなった時があって。住んでるエリアでそういうメンタルヘルスのサポートをしてくれてるような行政制度があるんですけど、そこで認知行動療法を何回かに分けて教えてもらいました。その時に教えてもらったのが、自分の気持ちについてなるべく毎日日記のような記録を取ることです。

僕もなかなかそれを日常で続けることが難しいって思っていたので、今はiPhoneのヘルスケアのアプリで、ステートオブマインドっていう項目で、自分の気持ちについてログをつけています。

Nagi:気持ちのラベリングみたいな。感情を見える化することって大事ですね。ありがとうございます。iPhoneなら確かに出来そうかも。ちょっとやってみます!

Anna:私もデンマークへ留学していた時に日記を書いてました。でもなかなか日記が続かなかったから、たまに振り返りたい時にだけ振り返る不定期の「なんでもノート」に切り替えました。

Kan:書くときは時間を決めて書くようにしてたのか、自分が書きたいと思った時に書くようにしてたのか。どういうふうに作っていたんですか?

Anna:完全に書きたい時に書いてました。でも夜寝る前とか、一人になる時間によく書いてたと思います。1ヶ月に1回、振り返ったり、気分がめっちゃ下がった時に、なんで下がったかみたいのかをめちゃくちゃ大量に書いて、自分のことを客観的に見て分析するみたいなのをやってました。こんな感じです。

Kan:結構分厚いですね…!

Anna:そうなんです。これは留学中のノートで、読み返していいなって思ったから今年の春くらいにまた書き始めたけど記録するのはいいかも。でもやっぱり書くのが続かない(笑)

Kan:パーソナルな日記を書く・作るという作業を通して、現在Annaさんが製作しているパブリックなZINEに進んでいったみたいな流れですか?どういうきっかけでZINEの製作に繋がったのか気になります。

Anna:ZINEはもともと知っていて、個人のことを共有できる表現の一つとして好きだったので中学校の卒業研究で初めて作りました。協力してくれた友達に配ったのがきっかけで。それ以前からもともと文章にしたり、自分が思ったことを何かしらの形で残すのが好きだったんですけど、ZINEを販売するようになった今でもまだパーソナルな部分をしっかり発信したり、ZINEで残したりしたことはまだ出し切れてないと思います。でも、すごいやってみたいなとも思ってます。

Rinako:記録の部分でいうと、自分が書く歌詞はパーソナルなことが多いんですけど、だいたいが怒りのパワーで書いてることが多くて。例えばムカついた時とかにワァってなった感情をどう処理すればいいかわからないから、とりあえず電車の中で携帯の上で歌詞を起こしてそこから歌にすることが結構多いんです。

自分がクィアだとカミングアウトしたのが15歳、活動曲作り始めたのが、14歳とかの時で、その当時からすでに「自分はクィアだ」という自認はありました。でもカミングアウトはできなくて、その時の「自分のことを言いたいのに言えない」とか、「恋バナ別にしたくない」みたいなモヤモヤを曲にしていました。でも今になって曲を聴き返すと「デートスポットに彼からプレゼントそんなのばっかり!」みたいなリリックがめちゃくちゃ怒れるクィアすぎて、もはや歌を通してカミングアウトしていました(笑)

なので製作を通して感情を落ち着かせたり共感を生むようなことができたらなって思って今も曲を作っています。

Kan:いいですね。僕も元々ずっと何か作ってみたいなって思っていて、できれば綺麗なキラキラしたアクセサリーとか可愛いものが作りたいと思ってたんです。そういうものを自分でも身につけられたらいいなと思ったんです。僕は今化粧品会社で働いていて、メイクアイテムなども扱っているんですけど、「作業する時に見えるのってアクセサリーはリングだな」ってふと思って、それを自分で作ってみました。

僕はこうやってお話ししたり、文字を書くことも行ってきたけど、特にオンラインソーシャルメディアでの言葉を使った響き方って言葉すごい大事だと思うんですけど、同時にそれ以外の言葉を介さない表現の仕方もしたいなと思いました。それで作り始めたのがアクセサリーです。今まだ途中で、4月から始めたばかりなので、うまく自分の中で言語化ができてないんですけど、そういうことがあるかなと思いました。

 

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元々自分がアクセサリーを身につけるのが好きなのですが、それに加えてアクセサリーが持つ意味にも惹かれています。例えばレインボーはLGBTQIA+のアイコンでもあるじゃないですか。でも、今はクィアの文脈で買ったものが、実は意に反していたり、何か紛争に加担している企業が作っていたということもあってそれを知った時には悲しくなることもあります。だからこそ、だったら自分で作ってやろうって思ったのもあります。

シルバーのリングでエナメルに七宝焼きのような加工で塗って焼いてるんですね。見た目は可愛いけど、裏にはパーソナルなメッセージがあって、同時に政治的だし、社会的な意味を帯びてるものが形になってるんじゃないかなって作りながら想いを込めています。

感情を記録する、生み出す、整える。

エディター:あっという間にお時間が来てしまいましたがどうでしたか?

Nagi:今日はありがとうございました。日々生きてると、「自分」という主語が抜けちゃったまま生きてるなっていうのに気づいて。衝撃でした。だからKanさんの、発言一つ一つが温かくて常にKanさんも悩みながらだと思うんですけど、常に自分をどう幸せにするかをちゃんと考えて決断していくっていうところが素敵だなと思います。自分も真似していきたいと思いました。

Anna:ありがとうございました!安心できる場での対話っていいなって今日話してて思いました。似たようなことを考えていそうな人たちでもやっぱ全然見方が全然違ったから、勉強になった。制作の仕方のプロセスとか、自分のリズムの出し方とかも参考になりました。
ZINEの制作に関してもとてもインスピレーションになりました。ラブアンドピース!

Rinako:ありがとうございました。有意義な時間で、同性婚の訴訟のニュースを見て今朝からズーンって沈んでいたんですけど。このオンライン対談会は元気と勇気が出る2時間でした。あと、先ほど話していた「自分を大切に、幸せにする」という話で腑に落ちて、自分の中でも大きな気づきになりました。楽しかったです。

Kan:今回はありがとうございました。僕もとても楽しかったです。2時間お話しして記事になるとお話を聞いていましたが、そのことを忘れるくらいお話に集中できたと思います。
楽しかったんだなっていう気持ちでいっぱいです。

それぞれバックグラウンドや取り組んでいることは違うけれども、想いを持ってつながるとか、人と会話をすることで僕自身もインスピレーションになったので、またこの想いを持ちながら、これからの製作にも取り組もうと思います。

ミーティングを抜けたら、画面が暗くなっちゃうのが、今から悲しくなっちゃうぐらい楽しい時間でした。こうして繋がれたこと、感謝しています。

全員:ありがとうございました!

Writer:kai

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kai

エディター・ディレクター

Steenz Contents Director , Editor。北海道出身。 自身のクィアや北海道のルーツなどから社会問題やアジアのカルチャーに関するコンテンツに携わる。 Independent Magazine 「over and over magazine」共同編集者。

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