
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、10代が参加するアメリカ・ミシシッピ州のカキ礁修復プロジェクトについてご紹介します。
世界全体で85%が消滅しているカキ礁
世界各国で食べられている貝類のカキ。ひとくちに「カキ」と言っても、実は複数の種類のカキが存在しますが、養殖されることも多い「マガキ」は、干潟や内湾、河口などの水深が浅いエリアに住むと、互いに層状に重なりあって「礁」という岩のような立体構造をつくり出すのをご存知でしょうか。カキ礁には、波消しの効果があり、海岸が波で削られてしまうのを防ぐ効果もあるそう。また、海洋生物の住みかにもなっているほか、条件が整えばカキ1個につき最大約200リットルの水をろ過し、きれいな海水にできるそうです。自然にできた構造物が、現存する自然環境を守る役目を果たしています。
しかし現在、この「カキ礁」が危機に晒されています。自然保護団体「The Nature Consercancy」によれば、世界全体でカキ礁の85%が消滅しているとのこと。近年、カキの乱獲や生息地の悪化、水質低下、自然災害、船の航跡などが原因で、カキ礁の消失が進んでいるのです。
アメリカでは、カキ礁修復プロジェクトが発足
そうしたカキ礁の現状がある中、アメリカ・ミシシッピ州では、興味深い取り組みがおこなわれています。
同州では、2005年に発生したハリケーン「カトリーナ」によって、当時存在していたカキ礁の90%が破壊されました。また2010年には、「BPディープウォーター・ホライズン事故」がおき、メキシコ湾に約78万キロリットルの原油が流出。さらに2019年と2020年には、ミシシッピ川の水位を下げることを目的にルイジアナ州のボネ・カレ放水路から淡水が放出され、沿岸の若いカキが大量に死滅する事態に陥りました。カキは海水や汽水(淡水と海水が混合した水域)がある場所に生息するため、淡水では生きられないのです。
Staff Blog: Emily McCay, of @ACESedu and the Mississippi Oyster Gardening Program, tells us that the Mississippi Oyster Gardening Program has had a banner year.
Find out how many oysters our 48 sites grew for restoration! #OysterGardening #SeaGrantSTEMhttps://t.co/8s16S9twBT pic.twitter.com/cv2bYiwmc0
— MSALSeaGrant (@MSALSeaGrant) April 26, 2024
度重なる自然災害や事故を受け、ミシシッピ州は2016年に『ミシシッピ・オイスター・ガーデニング・プログラム(以下、MOGP)』を設立。メキシコ湾沿岸に生息する、カキの個体数減少を食い止めるために動き出しました。
MOGPでは、ボランティアの人々に、無料でカキの稚貝が入った金網製の箱が提供されます。受け取った参加者は、箱を桟橋や波止場の水中に沈め、週に1回様子を確認しつつ箱に付着した捕食動物や藻を取り除きます。そして6か月後、成長したカキをプログラムのスタッフが回収し、既存のカキ礁の再建に役立てるそうです。週一の確認と捕食動物や藻の除去のみであれば、時間も手間もかからないため参加しやすいのではないでしょうか。2023年~2024年のシーズンには、ミシシッピ州沿岸の48カ所で93,000個以上のカキが採取されました。
ミシシッピ州出身の10代が驚くべき成果を上げた例も
ミシシッピ州出身の14歳、デミ・ジョンソンさんも、MOGP参加者のひとりです。2022年から同プロジェクトに参加し、これまでに合計1,500個以上のカキを育ててきました。育てたカキの量もすごいのですが、ジョンソンさんの素晴らしさはそれだけではありません。彼女はナショナルジオグラフィックが開催している、2024年度の「スリングショット・チャレンジ」にも参加。「スリングショット・チャレンジ」とは、13歳から18歳までの若者を対象におこなわれる、「現在の環境問題の解決策を紹介する1分間動画」を制作する取り組みです。
ジョンソンさんはこの「スリングショット・チャレンジ」で、『Off-Bottom Oysters』と題し、ミシシッピ州で減少しているカキ礁を、コミュニティ教育を通して回復させる取り組みを動画として制作しました。その結果、応募作品2,100件の中から最優秀賞を受賞。助成金1,000ドルも獲得しています。そんな彼女は、来シーズンには9つのカキ養殖場を管理し、修復活動を拡大する予定だそうです。
世界で広がるカキ礁を修復するための試み
アメリカのように、世界ではさまざまな方法でカキ礁の修復プロジェクトが進められています。例えばオーストラリアでは、健全なカキ礁の環境音を録音し、生育が思わしくない場所に聴かせる試みを実施。この方法はカキの幼生を引き寄せ、生息地構築を促進する効果的な解決策となる可能性があることがわかったそうです。このように、少しユニークな試みも進められていますので、興味のある方はぜひ調べてみてくださいね。
Reference:
メキシコ湾 Deepwater Horizon 油流出事故 一過去の流出事故との比較|-日本海洋生物研究所 年報,2011
日本における wetland としてのカキ礁生態系の現状と価値|日本湿地学会
Text:Yuki Tsuruda