世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、AI技術の安全な活用のために立ち上がった若手起業家の挑戦についてご紹介します。
進化を続けるAI技術
2024年は、生成AIが大きく進化した1年でした。
ChatGPTやClaude、Geminiといったテキスト生成AIに加え、MidjourneyやDALL-Eなどの画像生成AI、さらにはSoraやLumen5といった動画生成AIまで、さまざまな種類のAIが私たちの生活に浸透してきています。
また、企業でのAI活用も着実に広がっており、2025年にはこれらのAI技術がさらに進化し、より多くの企業で使われることが期待されています。
便利さの裏に潜むリスク
AIは非常に便利なツールですが、その一方で、いくつかの重要な課題も抱えています。
たとえば、AIが生成した文章や画像、動画が、意図せず他者の著作権を侵害してしまう可能性があります。AIはさまざまなデータを学習して新しいコンテンツを作り出しますが、その結果、既存の作品と類似したものを生成してしまうことがあるのです。この問題は以前から指摘されており、生成AIと著作権に関する問題については、現在も多くの国で議論が続いています。
また、生成AIに機密情報や個人情報を入力することで、そのデータが外部に漏洩するリスクもあります。さらに、AIが差別的な表現やヘイトスピーチを生成し、社会的な偏見を助長してしまう可能性や、フェイクニュースを作り出してしまうリスクも懸念されています。
加えて、AIを悪用する危険性も見過ごせません。例えば、悪意のある人物が生成AIでコンピューターウイルスを作成したり、特殊な指示を与えて、機密情報を引き出したりといった行為が考えられます。
さらにAIが、実在しない情報をあたかも事実であるかのように生成してしまう現象も確認されています。このような現象は「ハルシネーション」と呼ばれ、AI技術における大きな課題のひとつです。
AIは人間の業務を効率化し、多くの分野で活用が進む重要なツールである一方で、こうしたリスクを十分に理解し、適切に管理することが求められます。特に、企業がAIを導入する際には、社会に悪影響を及ぼさないための仕組みや体制を構築することが不可欠です。
若手起業家が立ち上げた「AIガバナンス協会」
そんな中、注目を集めているのが、2023年秋に設立され、2024年10月に一般社団法人として正式に発足した『AIガバナンス協会(AIGA)』です。この団体の立ち上げにおいて中心的な役割を果たしたのが、1995年生まれの若手起業家、大柴行人さん。大柴さんは高校卒業後にアメリカへ留学。ハーバード大学でコンピューターサイエンスや統計学を学び、「AIの脆弱性」について研究した経歴を持っています。
現在、大柴さんはシリコンバレーを拠点に、AIのセキュリティ企業「Robust Intelligence」を創業し、その経営に携わっています。一方で、日本国内におけるAI活用の未来にも高い関心を寄せており、その一環としてAIガバナンス協会の活動を推進しています。
AIガバナンス協会は、NECやNTTデータといった大手企業も参加する形で設立され、AIの安全な活用のための認証制度づくりや「AIガバナンス行動目標」の策定、AIガバナンスに関する知見の交換・共有などをおこなっています。
なぜ日本でAIガバナンスに取り組むのか
実は日本は、人口比で見るとChatGPTの利用率が世界でもトップクラス。AIの開発では他国におくれをとっている部分もあるものの、その活用については非常に高い意識を持っているのが特徴です。
また、大柴さんいわく、日本は品質管理やリスク管理に対する意識が高い国とも言われています。そのため、AIと社会をどう調和させるかという課題において、日本ならではの解決策を世界に向けて発信できる可能性があります。こうした背景から、大柴さんはアメリカではなく、日本での取り組みをスタートさせたそうです。
これからのAI活用に向けて
世界各国でAIの規制に関する議論が進む中、日本は極端な規制を避けながらも、バランスの取れた制度づくりをめざしています。若手起業家が主導するAIガバナンス協会の挑戦は、日本のAI活用の未来を、そして世界のAIガバナンスの標準を作り出す可能性を秘めているのです。
References:NRI「日本のChatGPT利用動向(2023年6月時点)」
Text:Teruko Ichioka