「気になる10代名鑑」の786人目は、有楠さん(17)。サブカルチャーを通して、思春期の高校生たちが言葉にできない感情を言葉にするプロジェクトを立ち上げました。コロナ禍に抱えていたモヤモヤを素晴らしいコンテンツが晴らしてくれた経験をもつという有楠さんに、活動におけるファーストアクションや将来の展望について、聞いてみました。
有楠を知る5つの質問
Q1. いま、力を入れていることは?
「思春期特有の言葉にできない感情を、映画や音楽などのサブカルチャーを用いて言語化して、それを本を通して発信していく活動を行なっています。プロジェクト名は『情熱に満ちた子供達』といって、学校の探究教育の一環として活動しています。
悩みを抱えがちな思春期の子どもたち、特に中学2年生に寄り添えるためのプロダクトをつくりたいと思って。高校2年生と3年生のメンバーが中心となって活動しています。
具体的には、大人たちに、思春期時代のエピソードや当時聴いていた音楽、観ていた映画などをインタビューしています。みなさんの話を聞いていると、思春期に救われた音楽や映画といったなんらかのカルチャーがあって。そこで、思春期特有の時期に、前向きに悩みと付き合っていくためのバイブルになるような本をつくりたいと思っています」
Q2. 活動を始めたきっかけは?
「コロナの影響が大きいです。当時はいろんな制約があって、できることが限られてしまっていたし、自分の中でもモヤモヤがすごい募っていた時期でした。
そんなとき、5つ上の兄が、Oasisの『Whatever』という曲を教えてくれて。イントロを聴いた瞬間、心が掴まれて、それまでモヤモヤしていた悩みがなんだかどうでもよく思えたんです。そのとき、ロックには何かを変える力があると感じ、そこからロックンロールや、バンドに夢中になりました。
同じ時期に『フォレスト・ガンプ 一期一会』や『スタンド・バイ・ミー』といった、旧作映画を観て、モヤモヤしていた気持ちがカルチャーのおかげで晴れやかになったように感じて。そういったものをもっと後世に残していきたいと思って、プロジェクトを立ち上げました」
Q3. 活動にあたってのファーストアクションは?
「実際に手を動かそうと思って、本をつくってみました。高校2年生の2月に、コメディ映画を批評する、自作の本をつくったんです。これがいまのプロジェクトにつながっています。
正直それまで、本を読むのが大嫌いだったんです。そんな自分が本を書こうと思ったのは、いいと思ったカルチャーを、他の誰か、特に悩みを抱えている同世代の中高生に伝えたいと思ったから。
本というプロダクトを通して自分の思いを伝えることは、まるでロックンローラーみたいでかっこいいなと思ったんです」
Q4. 活動をする中でつらかったことは?
「いま、8人ぐらいのメンバーと一緒に活動しているんですけど、とにかくみんな個性豊かで。それはいいことなんですが、まとめることは難しいなと感じています。それに、自分自身でも、まだモヤモヤしているところがあるので、本当にこれでいいのか、といつも自問自答しています。漠然とした不安感に襲われることも多いです。
でも、先生方をはじめとして、まわりの大人に支えられて、活動することができています。特に、80〜90年代に学生時代を過ごした世代の人たちには、プロジェクトの内容に共感していただけることが多くて、応援してもらっていて。思春期を乗り越えた大人たちの意見を取り入れながらも、いまの中高生に必要な寄り添い方を日々、模索しています」
Q5. 将来の展望は?
「編集者や放送作家、脚本家として、コンテンツをつくる仕事に携わることです。小学生のころからテレビっ子で、特にバラエティ番組が大好きで。人を笑わせるのも大好きだから、裏方として番組や雑誌などのコンテンツ制作に携わりたいと思っています。
その夢とは別に、中学・高校の国語の先生になることにも憧れていて。高校2年生の2学期までは、教員になるなんて考えたこともなかったんですけど、最高にロックな先生に出会って、教員に対してのイメージが変わりました。
その先生は、文学は味わうものだと教えてくれたんです。そこから、ただ点数を取るための作業だった国語が、急に生き生きとしたものに変わって。自分がそうしてもらったように、誰かの心に火を灯すような先生になりたいという思いもあります。
いずれにしても、カルチャーを通して、中高生が前向きに悩みと向き合うためのきっかけをつくり、そこに寄り添っていく。そんな活動を、人生を通して実践していきたいなと思っています」
有楠のプロフィール
年齢:17歳
出身地:東京都世田谷区
所属:聖学院高校、情熱に満ちた子供達プロジェクト
趣味:映画鑑賞、90年代ロック、プロレス(WWE・新日本プロレス)、読書
大切にしている言葉:「月に手を伸ばせ、たとえ届かなくても」(Joe Strummer)
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Photo:Eri Miura
Text:Ayuka Moriya