世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、過酷な強制労働が指摘されているタイの違法漁業の問題と、こうした奴隷労働者の救出を行う、タイの支援団体の取り組みについてご紹介します。
タイで深刻化する違法漁業や人権侵害
東南アジアのタイで、違法漁業の問題があるのをご存じでしょうか。多くの労働者が、漁業の現場で長時間労働を強いられたり、暴力を受けたりなどの人権侵害にさらされ、死に至るケースも複数報告されています。
そんなタイの漁業ですが、日本も無関係ではなく、エビをはじめ多くの水産品を輸入しています。持続可能な水産品のサプライチェーン確立に向けて、私たち消費者には、どんな行動が求められているのでしょうか。
奴隷労働の被害者を5000人救出した団体
「漁船ではケガや病気をしても休みなく働かされていた」「船長に歯向かった労働者は殺され、海に捨てられた」
タイを拠点とする労働保護ネットワーク(LPN)の共同創設者で、2017年にノーベル平和賞の候補者にもなったパティマ・タンプチャヤクルさんは、漁船での奴隷労働の実態について、こう話します。LPNはタイで2004年に設立され、これまでに漁船や水産加工工場での奴隷労働の被害者を、約5000人救出してきました。
こうした活動を紹介したドキュメンタリー映画『ゴースト・フリート』が、昨年5月より、全国各地で放映されています。
LPNによると、こうした奴隷労働の被害者は、ミャンマー人やカンボジア人など、移民労働者が多いそうです。仕事を紹介する悪徳業者は、街中でたむろする若者などに「良い仕事がある」と声を掛け、紹介料として3万バーツ(約12万円)を貸し付け、その借金返済のために、漁船での労働を余儀なくさせるといいます。なかには労働者を薬物依存にしたり監禁したりして、漁船に連行することもあったそうです。
身元不明のまま亡くなる労働者も
LPNが2006年から2014年に収集した強制労働者からの報告を見ると、その残虐な実態が明らかになっています。
漁船では船長の命令が絶対となり、歯向かうと鉄パイプで殴るなどの暴行を受けたり、食べ物を与えてもらえないといった人権侵害が日常的におこなわれています。港に戻ってきた労働者は手足の喪失、栄養失調や視力障害といった身体的な被害のほか、漁船での経験がトラウマとなり、社会復帰ができなくなるといった精神的な被害も報告されています。
パティマさんは、「あるときは30人が漁に出たのに、帰ってきたのは12人だった」と話します。身分証を漁業会社に没収されていることも多く、実際に誰が、いつ、なぜいなくなったのか、正確に把握することすら困難だそうです。
消費者ができることは?
こうした実態は、欧米の人権団体やメディアなどの指摘で徐々に明らかになり、欧州連合(EU)は2015年、タイに対する違法・無報告・無規制(IUU)漁業の是正勧告を出しました。
それを受けてタイ政府は、労働者を保護する法律の整備を進め、違法漁船の取り締まりを強化。現地の大手食品メーカーも、漁業従事者の労働環境改善に向け取り組みを進めた結果、タイの漁業を取り巻く環境は以前より改善したそうです。しかしパティマさんは、「いまだに1年に100人もの漁業従事者が命を落としている」と懸念を示します。
もちろんタイ企業だけでなく、日本企業にもこうした人権への配慮が求められています。日本の食品企業は、エビやイカなどの水産品をタイから多く輸入しており、こうした「海の奴隷」が獲った水産品が、わたしたちの食卓に並んでいる可能性もあるからです。
パティマさんは、「日本でも映画が放映され、こうした奴隷労働の問題が認知されてきました。どうか、自分たちの食べるものがどこからやってきたのか、気にかけてみてほしい」と訴えます。
消費者であるわたしたちにも、人権侵害の問題に対して適切に対応していない企業のサービスや商品の購入を拒否したり、SNSで情報を共有したりなど、できることはあります。さまざまな働きかけを通して、こういった問題を食い止めることができるのです。
食卓に並ぶあらゆる食品。そのサプライチェーンの透明性について、日々の生活のなかで考える時間を増やしてみてはいかがでしょうか。
Image:Risako Hata、ユナイテッドピープル株式会社
Text:Risako Hata