聞きたいことや悩みごとは、SNSでも聞けるけど、やっぱり真剣な相談は、面と向かってしたほうが伝わるもの。そこでSteenzでは、独自のスタンスで社会を生きる人生の先輩に、10代が聞きたいことをなんでも聞いちゃう新企画を始動させます。第1回は、“先入観に縛られないニュートラルな視点”を届けるメディア『NEUT』の編集長・平山潤さんに会いに行きました。
そんな平山さんに質問をぶつけるのは、以前、Steenzに登場してくれた、山本大貴さん、中村京香さん、もえぴいさんの3名。社会活動に関することから、プライベートな内容まで、いろいろな質問が飛び交いました。
10代の気候変動アクティビスト・山本大貴さんが、気になることを聞きます!
最初に質問をしたのは、高校時代から気候変動のムーブメント「Fridays For Future」に携わり、アクティビストとして発信活動を行っている山本大貴さん(19)。社会的なテーマを多く扱う『NEUT』の編集長・平山さんに聞きたいことが、たくさんあるよう。
気候変動問題への注目度や理解度について、どう思いますか?
山本:僕は気候変動問題に興味があります。『NEUT』でも環境問題を扱われていますが、平山さん自身として、気候危機についてどう考えていますか? 世代によって関心度の違いがあると思いますが、日本での報道のされ方や、生活者の理解についても思うことがあれば教えてください。
平山:ムッズ(笑)。10代への言葉って、いろんな意味で重いから、緊張するな……。
世代で言うと、ぼくはいま30歳で。2012~2013年かな、大学生のときに1年ぐらいアメリカに行ったら、みんなが学校でボランティア活動してたりとか、飲み会とかパーティーでフラットに環境問題について話してたりしていて。で、日本に帰ってきたら誰もそんな話をしてなかったって時代。
山本:いまでも、海外に比べると話している人は少ない印象があります。
平山:もちろん東京にもそういう意識を持って活動している同世代の人も当時からいたんだけどね。たとえば、NGO団体「350.org JAPAN」で活動してた小野りりあんとか、キャットストリートでゴミ拾いをしてる団体「CATs」の中村元気とか。ふたりともめっちゃ仲良くて。まわりにそういう人がいてくれたから、ぼくも当時から関心を持ててたかなって思う。
山本:小野りりあんさんは、僕も関わりがあって、尊敬しています。
平山:それが10年前なんだけど、そのときと比べると、最近だと日本でも気候変動対策の改善を求めるハンガーストライキとかも起こっていて、そこにアカデミックな人からセレブリティまで参加してるっていう状況。
芸能人も『環境問題の話をしよう』とか、環境じゃないけど『選挙に行こう』とか、社会的なメッセージを発信できるようになってるし、そういう意味では希望に感じてるかな。
社会問題を発信するとき、どんなことを意識していますか?
山本:『NEUT』で気候変動をはじめとする社会問題を扱うときに、気にしていることってありますか? 僕もいろんな発信をしているんですけど、こういうテーマって、SNSとかでもネガティブなコメントがつきやすかったりして……。
平山:原体験がない人に、社会課題の大切さを理解してもらうのって、難しいよね。特に「気候変動」って、「平等」とか「人権」とかよりさらに先の話で、考える余裕を持てない人も少なくないから。
ぼくの環境問題に関する原体験は、二十歳のときにCATsの清掃ボランティアに参加したこと。いつも遊んでる街に捨てられてる、お酒の缶とかペットボトルとか、タバコの吸い殻とかを拾って、「なんで誰かが拾ってくれると思ってるんだろう。誰かが綺麗にしてくれると思ってるんだろう」って感じたこと。そこから、メディアでも気候変動に関する連載をやったりしてきた。
山本:理解されなくて虚しくなったり、アンチのコメントに傷ついたりしませんか?
平山:ぼくの場合は編集者だから、直接的な活動をするというより、メディアからの発信を通して、環境問題のイメージを変えたり、向き合う視点を変えたりするきっかけづくりができたらって考えでやってるけどね。そのとき意識してるのは、たとえば「SDGs」って言葉も、知ってる人と知らない人、好きな人と嫌いな人がいるということ。その言葉を使うことで、知ってる人、好きな人しか読まないものになっていないか、届く母数が減っちゃわないか、っていうのは気をつけてるね。
山本:そこまで考えてるんですね。
平山:誰に届けたいかによるけど、ぼくの場合は、知らない人、嫌いな人にも、考えてもらうきっかけをつくりたいと思ってる。『わかっている人たちだけでやってるものじゃないよ』っていうのが大切というか。海外ではデモとかストライキって自然なことだけど、日本ではタブー視してしまうような教育をされてきている人が多いわけで、拒絶的になってしまうのは仕方ないことでもあって。
新しい考え方を外から持ってきて届けるとき、どういう言葉を選べば耳をふさがれないのか、どうやってローカライズするといいのかっていうのは、発信者のコミュニケーションのテーマだと思うな。
マスメディアが伝えない「リアル感」をどう届けている?
山本:僕が気候変動と発信に関心を持った原体験は、台風19号で大きな被害が出た栃木県佐野市にボランティアで行って、泥かきをしたときのことなんです。
それまでテレビを通して、上空からの映像でしか現場を見ていなかったのですが、実際に足を運ぶと、そこには人々の『これからどうしていくんだ』という空気感や、疲労感が漂っていました。マスメディアが映していない、人々の姿や感情。僕は、そういう拾い切れていない部分を拾いたいと思ったんです。
平山:なるほど。災害が起こったときに大きなメディアがバーッと取り上げて、それで多くの人に知ってもらうことも、それはそれで大事なこと。で、山本くんの言う、スロージャーナリズムみたいな、後追いして届けていくこともすごい大事だよね。
山本:僕は、なるべく当事者に近い発信をすることで、誰かの原体験を疑似的に届けるようなことができたらと思っています。『NEUT』はまさにそういうことをしてらっしゃるメディアだと思ってるんですけど、意識していることってありますか?
平山:『NEUT』の場合は、出会った“人”を取り上げるということが基本になっていて。まずぼくのことを知ってもらって、相手のことを知って、『NEUT』も知ってもらって、そこに共感してくれる人が出てくれている。ぼくだから、もしくは『NEUT』だから話してくれるって人がいるわけ。そうやって“テーマ”でなく“人”を取り上げるからこそ、マーケティングやトレンドから入ってはいけないよね。
「環境月間だから、PRIDE MONTHだから、何かをしゃべってください」っていうのは、「みんなで一緒に考える」って意味では大事かもしれないけど、ぼくたちのやることじゃない。『NEUT』は、それを「いつでも考えなきゃいけないこと」だと思ってるし、出会った人が発信したいタイミングで記事にするからこそ、本当に自然な言葉が降りてくると思う。それが山本くんの言う「リアル感」につながってるのかな?
山本:そう思います。あ、もう時間か……とても勉強になりました。気候変動は単なる環境問題じゃなくて、格差とかマイノリティにも繋がる話だと思ってるんで、そういった部分も、いろんな人と向き合って、しっかり伝えていけたらいいなと感じました。
平山:応援してる。注意してほしいのは、外に外に意識が向いていくと、自分を大事にできなくなっちゃいがちっていうこと。ぼくもそれに苦しむことがあるけど、山本くんも自分のことを大切にして活動を続けてくれたらいいなと思うな。
平山潤さんプロフィール
1992年神奈川県生まれ。『Be inspired!』の編集長を経て、現在は「既存の価値観に縛られずに生きるための選択肢」をコンセプトに発信するWEBメディア『NEUT Magazine』の創刊編集長、本誌を運営するNEUT MEDIA株式会社の代表を務める。
今回登場してくれた10代
山本大貴さん(19歳)。高校時代から、気候変動のムーブメント『Fridays For Future』に携わり、発信活動を行う。「見えない当事者の声を大切にする」ことがモットー。
Photo:Goku Noguchi
Text:Ayuka Moriya
Edit:Takeshi Koh