シリーズ「あの人に聞く、“私の10代”」。今回のゲストは、色気とおしゃれさが両立する作風が支持を集め、雑誌や広告を中心に活躍するイラストレーター・たなかみさきさん(29)。最近では、コラム執筆やラジオパーソナリティなど、活動の場を広げ、イラストレーターという枠を超えて、カルチャー界を盛り上げています。
そんなたなかさんだが、インタビューがはじまるやいなや、「実は、10代の記憶があまりない……というか封印していて」と口にした。ファンを多く抱える人気イラストレーターの、隠された学生時代に迫ってみた。
机から趣味で描いていた絵が散乱して、性癖が発覚…。そのとき思ったこととは?
「正直、恥ずかしい記憶ばかりで、10代の思い出は記憶から抹消していて。あまり覚えてないんですが、頑張って思い出してきました」そう話しながら、愛用の手帳を取り出したたなかさん。今日の取材のために、10代の思い出を書き込んできてくれたそう。
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「“10代”と聞いて、思い出したことがあって。絵を描くことは中学時代から、いや、もっと前からずっと好きだったんですけど……当時は絵が描けても『オタク』扱いを受けるような環境でした。クラスで1日1回は喧嘩が起こるクラスで、休みの人がいると、その人の机がバーンってひっくり返っている……そんなところに通ってました」
そんな中学校で、忘れもしない事件が起こる。
「案の定、私が休んだ日に、机がひっくり返されて……。そのとき、引き出しに入っていた自作のえっちな絵が散乱してしまったようで。クラス中に私の性癖がバレたんです」
まるで漫画のような失敗談。
「ショッキングな出来事だったので、どうして置きっぱなしにしていたのか詳細は思い出せないのですが……でも『本当にヤバいのは家にあるはず!』と恥ずかしさをこらえ、必死に正気を保ってました」
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誰もいない視聴覚室で、ヤンキー友達だけが見ていたオリジナル漫画
そんな荒れた中学で、たなかさんがもうひとつ心に残っているのが、ヤンキーの男友達とのちょっと不思議な交流。
「その子とは家が近くて、小学校からずっと仲が良かったんです。だから、ヤンキーと仲良くなったのではなくて、仲良くしていた子がたまたまヤンキーになった感じ。そんな彼に、毎週のように自作の漫画を読んでもらっていました。たぶんお互いに恥ずかしかったので、視聴覚室とかでこっそりと」
こそこそ隠れながら、「週刊連載のように」ノートに描いた自作の漫画を見せていたたなかさん。ちなみに、どんな作品だったのだろう。
「それはそれでめちゃめちゃ恥ずかしいんですけど、『鬼滅の刃』みたいなダークファンタジーを描いていました。鬼であることを隠している女子高生の話。毎週読んでもらって、コメントをもらってたんです。フィードバックというよりは、単純に感想ですね。でも、ある日の感想で『このラブコメ要素はいらない』って言われたんです。それを聞いた瞬間、すごい恥ずかしさとショックに襲われちゃって……。そこで、この漫画の連載は終わりました。それからは彼に作品を見せることはなくなりました。『たった一度の批判でこんなに描けなくなってしまうんだな』って思います」
誰かひとりでもいい。人に見てもらう経験が、成長につながる
そのひと言で連載こそ途絶えたものの、「人に見せる」ことが大きな経験になったと振り返る。
「私にとって、絵はコソコソと描いてきたものだから、誰かに作品を見せているという事実だけで、『以前より、一歩成長してるな』って思えていた気がします。まず、自分の作品を見てもらうことは、すごく度胸がいることだと知りましたし。彼のどんな言葉も、当時の私からしてみれば、初めての読者からの感想で、ありがたかったです。
その漫画を見せていたのはたぶん彼だけでした。やっぱり、それぐらい誰にも知られたくないし、でも誰かには知ってほしいと思っていたのかな」
時は経ち、たくさんの人が、たなかさんの作品を見て、いろいろな感想をつぶやいてる。
「当時の自分を思うと、こんなにたくさんの方に、自分が描いた絵を見せる日がくるなんて、信じられないこと。
いまでも、熊本に住む夫とか、東京で一緒に暮らす友人とか、身近な人に、作品を見てもらうようにしていて。そこでもらえる感想に一喜一憂しています。好きな人、尊敬している人に絵を見てもらうのはいまだに緊張します。こっそり作品を見せていたこの思い出は、私の大切な初心ですね」
封印していた中学時代の記憶を思い返してくれたたなかさん。次回はたなかさんの作品の特徴である、セクシャルな要素のルーツや、それを描き続ける理由を聞いてみた。(第2回に続く)
Photo : AoiText : Ayuka MoriyaEdit : Takeshi Koh