
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、世界農業遺産についてご紹介します。
FAOが認定する「世界農業遺産」
ここ数年、気候変動に伴った不作や円安により、農作物が話題になる場面が増えています。その多くは価格に関することで、どこでどのように作られているのかといった生産の背景にまで触れられる場面は多くありません。普段何気なく食べているお米や野菜には、何世代にもわたって受け継がれてきた農業の知恵があります。

国連機関の食糧農業機関(FAO)は、社会や環境に適応しながら継承されてきた、独自性のある伝統的な農林水産業を「世界農業遺産」として認定しています。
この制度では、農林水産業の技術面だけでなく、それに密接に関わって育まれた文化や景観、生物多様性などまで含めた地域の仕組み全体が評価されます。2026年現在、世界では29カ国104の地域、日本では17の地域が認定されています。今回は、そのなかから3つの地域をピックアップし、紹介していきます。
川越のさつまいもはここが発祥!埼玉県武蔵野地域の「落ち葉堆肥農法」

関東エリアで唯一の認定を2023年10 月に受けているのが、埼玉県武蔵野地域(川越市・所沢市・ふじみ野市・三芳町)の「落ち葉堆肥農法」です。
江戸時代、江戸周辺で一気に人口が増加したことを背景に開拓されたと言われている、埼玉県武蔵野地域。もとは畑作に向いていなかった火山灰土の土地に、屋敷地・畑地・平地林の3種の用途を持つ細長い短冊形の地割が整えられました。
草原を平地林にし、そこから発生する落ち葉を堆肥にして、栄養分の多くなかった畑地にすき込む。こうした何段階もの工程を合理的に行える仕組みとして確立された農法が、「落ち葉堆肥農法」として認定されました。この農法によって、名産として知られる川越のさつまいもをはじめ、ブロッコリーや小松菜などさまざまな農作物が生産されてきました。いまでもその地割が生きており、ユニークな景観を見ることができます。
また、適切に管理された平地林は、オオタカの繁殖地となっていたり、シュンランやキンランといった希少植物も生育していたりと、生物多様性が維持されています。
和歌山県有田・下津地域の「石積み階段園みかんシステム」

みかんの産地として有名な和歌山県の有田・下津地方。400年以上にわたって、急傾斜地を生かした温州みかんの栽培がおこなわれてきました。この伝統的な農法が2025年8月に「有田・下津地域の石積み階段園みかんシステム」として世界農業遺産に認定されました。

有田・下津地方では、何代にも渡って石垣をつくり、斜面に階段状の園地を築いてきました。石垣があることで、土壌が流れ落ちるのを防ぎ、適度な水はけを保ち、みかんに十分な日光が当たるなどのメリットが生まれるそうです。日射により石が温まることもまた、みかんの生育を助けているのだとか。
こうして作り出した景観の元、地域の微気候に適応しているみかんが30品種以上も生産されています。長期間にわたって多様な品種のみかんを出荷できることに加え、養蜂や林業、野菜栽培と組み合わせて地域の暮らしが支えられていることも、サステナブルであるとして評価されています。
奥出雲地域の持続可能な水管理及び農林畜産システム

島根県の奥出雲地域では、良質な砂鉄が取れたことから、約1,400年前から砂鉄採掘と、砂鉄と木炭から鉄を生産する「たたら製鉄」がおこなわれてきました。
砂鉄を採掘するには山を切り崩す必要があり、たたら製鉄には大量の木炭も欠かせません。そのため、一般的には周辺環境が荒廃しやすいとされてきました。しかし、奥出雲では採掘によって開いた穴を灌漑用のため池や水路として活用。周辺を農地として再生してきました。また、木炭をつくるために伐採された山林は、約30年周期で伐採と再生を繰り返す仕組みが整えられ、森林資源が循環利用されていました。

その結果、稲作、林業、牛、ソバ栽培を組み合わせ、地域資源を循環利用する独自の農林畜産システムが築かれてきました。かつて運搬や農耕用に使役されていた牛は、今では高品質な黒毛和牛の飼育へと変わり、重要な収入源となっているそうです。
また、採掘の際に墓地や神木がある場所を避けて堀り進めたため、棚田となった今でも、盛り上がった地形が点在しています「鉄穴残丘(かんなざんきゅう)」と呼ばれ、奥出雲ならではのユニークな景観として、今でも見ることができます。
積み重ねられてきたもの=持続可能であるということ
世界農業遺産に認定された地域は、一見すると雄大な自然が広がる場所のように見えます。しかし、それは決して「手つかずの自然」ではありません。人が何世代にもわたって土を耕し、種をまいて農業をおこなってきた結果としてつくられた景観です。何百年にも渡っておこなわれてきたということは、持続可能であるという証明でもあります。デジタル技術や最新の仕組みを取り入れたサステナブルが注目される時代ではありますが、こうした積み重ねられた知恵や工夫から学ぶこともきっと多いはずです。
Text:Itsuki Tanaka






