Fashion&Culture

TOKYO ART BOOK FAIR 2025レポート。 ディレクターがアートブックフェアで買ったもの。

TOKYO ART BOOK FAIR 2025レポート。 ディレクターがアートブックフェアで買ったもの。

〈概要〉
場所:東京都現代美術館
WEEK1 12月11日(木)〜14日(日)
WEEK2 12月19日(金)〜21日(日)

ZINEカルチャーがより浸透した1年。

個人による手作りの雑誌である「ZINE」。それらは自己表現や趣味でつながるツールとしてもますます広まりつつあります。販売会として全国各地で行われる「ZINE FEST」や「文学フリマ」などは人気を集め、それぞれ一般誌では扱いづらい内容やニッチなテーマなどが人気を呼んでいます。そんな中でZINEを扱うイベントで年に1回あるのが「TOKYO ART BOOK FAIR」(以降、TABF)。


2009年から始まったTABFはアート出版に特化した日本で初めてのブックフェアであり、現在は東京都現代美術館で開催されています。二週間で計560組(各週末約280組)が出展し、国内外から様々なアーティスト、出版や印刷に携わる人やそれらに関心のある人たちが参加しました。

どんな作品があった?

2週に分かれた今回のTABF。記事ではWEEK2の出展者や作品を紹介します。

エントランスフロア

HomoPleasure Collective(台湾)

「HomoPleasure Collective」は台湾を拠点とするクィア・コレクティブ。メンバーはヴィジュアルアーティスト、写真家、デザイナー、作家、イベントオーガナイザー、DJなど多彩であり、独立的かつ協働的な創造を通じて、クィア・アイデンティティや周縁性、愛、そして闇を探究し、制作しています。

出展者のひとり、マンボウ・キー(登曼波)さんは「VOUGE TAIWAN」のファッションフォトグラファーとして元デジタルIT大臣のオードリー・タン氏を撮影するなど台湾のクィア・カルチャーを牽引する新世代として写真、映像、音楽といった表現を用いて、制作活動しています。

 

この投稿をInstagramで見る

 

Manbo Key / 登 曼波(@manbo_key)がシェアした投稿

アジアで唯一、同性婚が合法化された台湾の特性が表れたブースになっており、ジェンダー、セクシュアリティに関するアートブックやZINE、グッズが並んでいます。台湾で活動するレズビアンの制作者が2020年のプライドパレードの後に自宅でレズビアンホームパーティーを開いたことがきっかけに製作されたZINE『淑女俱楽部』は人気で2日目には完売してしまったそう。

彼らは国際的なアートに軸足を置きながら展覧会、出版、キュレーション、パーティーなどの多岐にわたる活動を横断し、西洋とアジアをつなぐプラットフォームとして活動しています。近年活動は、シドニー、ベルリン、台北、コペンハーゲンなどでもプロジェクトや制作発表、展示などを行っています。

platform3(日本/タイ)

個人書店の「loneliness books」と「(TT)press」が運営する、人と本が集う新宿・東中野にあるスペース「platform3」。ここでは、アジアの多様な文化や社会運動に触れられるような、独自の編集と選書を大切にしているそう。

platform3としては初となる今回の出展ではタイ・バンコクからグラフィックノベル制作者のKoongさんを招き、彼の人気作品である『Pointillism ポインティリズム』を日本語版に翻訳しクラウドファンディングを経て販売を開始しました。

そのほかにもアジアをルーツや題材にした作品は多くの来場者も手にとっており、3人との会話を楽しんでいました。

ZINES MATEエリア


Nomad Papaya Books(ドイツ/台湾)

「Nomad Papaya Books」は、ドイツと台湾を拠点とし、文化やアイデンティティの変化に焦点を当てたアートブックとZINEの出版社。創設者のケネス(Kenneth Lin 林庭宇)さん(画像右)はアイデンティティや国籍の概念について疑問を抱き自ら混乱に陥った実体験があり、それらをアートブックを制作し、人々とのコラボレーションを通じて、答えを模索したり否定したりしながら、新たなイデオロギーや関係性を築くことを目的に始まったといいます。

気さくで、ポケモンから学んだという流暢な日本語を話すケネスさんは、今回のTABF初出店を通して、「より短いコミュニケーションの中でアートブックが売り買いされる雰囲気が新鮮でパッションがあった。謙遜や複数の意味がある言葉など、コミュニケーションでの日本語の文脈の多さに驚いた」と話していました。日本の植民地時代に持ち込まれたパパイヤが出版社の名前にもなっており、その他アイデンティティや文化にまつわるアジアの麻雀についての本なども販売していました。

Fraction(韓国)

「Fraction」は、韓国・ソウルを拠点に多言語の本を出版し、グラフィックデザインを手がけるプレス兼スタジオ。グラフィックデザインとキュレーションの狭間に位置する実践を行なっており、ソウルにある同名のアートギャラリー「Faction」と合わせてグラフィックデザイナー兼インディペンデント・キュレーターのリー・ルム(Lee Reum)によって運営されています。彼女はソウルの弘益大学校で視覚伝達デザインと芸術学を専攻し、Minuma Publishing グループでブックデザイナーを務めたそうです。

ルムさんは2024年に作品『Ashes』が韓国でベストブックデザインアワードにも入賞しており、今年製作・販売のアートブック『展示スペースとしてのオブジェクト(Objects as Exhibition Spaces)』や、Fractionとして装丁も手がけたフォトグラファーのイ・チェオンさん(Lee Cheong)さんによるソウル、東京、台北の街を生き抜く生物に焦点を当てた写真集も販売され、コンセプチュアルで着眼点がとても興味深い題材を扱っていました。

Guest Country Booth


Masoto(イタリア)

「Masoto」はデザイナーおよびイラストレーターとして活動しています。Nieves、PRNT Seoul、Yvon Lambert、Printed Matter NY、Mousse Magazine、Nero Edizioniといった出版社とコラボレーションした製作を行っており、いくつかのアーティストによる作品が展示でも並んでいました。

リソグラフ印刷を用いた作品や台湾、韓国の公共性にフォーカスしたZINEなどの製作も行い、12月に制作されたZINE『ETTORE』では1900年代に日本政府によってフランスから輸入され栽培が始められたオリーブに関する物語が描かれています。生態系や文化が異なる中で主人公の「ETTORE」が家族と離れて農家や日本という地生きるストーリーが展開されており、日本に住んでいても気づかないような小さな物語が描かれていました。

オンラインでは @mepaintsme 及び @thdrawingstall として活動しています。

来場者が見る今年のTABF

都内の大学に通う光太郞さんは、「会場を一通り回ることはできましたが、最終日は想像より混んでいてびっくりしました。台湾の写真家・Lin Jaihangさんの作品が印象に残っています。Linさんは男性をモデルにした写真を多く手がけており、その作品は美しさと透明感を併せ持ち、一枚一枚が映画のワンシーンのように感じられました。

中には、公共の場では開くことをためらってしまうようなアート作品もあり、それらが誰でも閲覧できる形で置かれていたことに衝撃を受けました。男性の身体の美しさは特定の人だけのものではなく、誰もが自由に感じ取ってよいものなのだと、あらためて考えさせられました。

今回は、ポストカードやキーホルダー、タイの高僧のカレンダー、「冥銭」をテーマにしたZINEなどを購入しました。たくさん買う予定ではなかったので、想定外の出費にはなりましたが、それ以上に満足感のある時間でした!」と話してくれました。

ディレクターが買ったもの。

WEEK1、WEEK2で購入・交換したアートブックやZINEなどの数々を紹介。

「Gusher」
オーストラリア発のフェミニスト・ロックマガジン。ロックンロールをめぐる知的で創造的、そして説得力のある対話の場を作り、クリエイティブライティング、ビジュアルアート、写真など、多様な形式で、多様な作家やアーティストの作品を紹介しています。テーマのエッジの効き方も去ることながら、Independent magazineとしても非常にクオリティが高く、また誤解されがちな「フェミニズム=女性をテーマにした作品」という固定概念を打破するようなエディトリアルには感銘を受けました。

「FAR–NEAR」

アメリカ・ニューヨークのアーティストが運営し、チャイナタウンにスタジオを持つ彼方らは異文化間のアートブック製作、およびプラットフォームとして機能しています。イメージ、人物、アイデア、歴史を通じてアジアへの視点を広げ、固有の支配的なモードを学び直すことを目的としています。

 

この投稿をInstagramで見る

 

FAR–NEAR(@far___near)がシェアした投稿

アジア大陸とその人々は、西洋の観客にとって「他者」として描かれ、しばしば外国人の視点から見られてきました。極東にとどまらず、FAR−NEARは日本からイランまで、あらゆる場所からの声を取り上げています。ついステレオタイプでみてしまう「アジア」という文脈を捉え直すことができるような本の数々の選書が印象に残りました。

来年もアートブック、ZINEイベントが見逃せない!

ZINEカルチャーは止まることを知らず、TABFの会期に合わせて外部のサイドイベントも開催したそうです。1年に1回のブックフェアもあれば、2年に1回や不定期で開催するアートブックフェアもあり、これらは国内だけに止まらずアジアやヨーロッパなどでも開催しています。

国内外で注目のブックフェア
夏のZINE祭り(東京・渋谷)
北加賀屋FLEA (大阪・北加賀屋)
草率季 Taipei Art Book Fair(台湾・台北)
Kuala Lumpur Art Book Fair(マレーシア・クアラルンプール)

旅行のついでにアートブックフェアもチェックして参加してみると、思わぬ発見やインスピレーションに出会えるかも。ぜひブースの人との対話を通じて作品をより理解し、じっくり読んで楽しめるアートブックやZINEに出会ってみてください!

Writer:kai

SNS Share

Twitterのアイコン

Twitter

Facebookのアイコン

Facebook

LINEのアイコン

LINE

kai

エディター・ディレクター

Steenz Contents Director , Editor。北海道出身。 自身のクィアや北海道のルーツなどから社会問題やアジアのカルチャーに関するコンテンツに携わる。 Independent Magazine 「over and over magazine」共同編集者。

View More