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自分の愛し方が分からない人へ。Steenzブックレビュー【本と私と。】

自分の愛し方が分からない人へ。Steenzブックレビュー【本と私と。】

「書評アイドル」として執筆活動しながら、モデルなど幅広く活動している20歳のわたし、小春による書評フォトエッセイ連載企画 “Steenzブックレビュー”。

今回は、「自分の愛し方が分からない人」におすすめの1冊『愛されなくても別に』です。今回も、わたしと同じく以前10代名鑑に出演されていた写真家の村山莉里子さんに撮影をいただいて、「感情と風景が交差するところ」をコンセプトに、新しい本との出会いをみなさんに届けられたらと思います。

愛されるだけじゃこころは満たされない?

わたしは昔、漠然と「愛されたい」と思っていた。

大抵、物語の中では、孤独なヒロインが誰かに愛されて幸せになっていく。だから、愛されれば、わたしが感じていた孤独感や自己肯定感の低さは解決されるのだと信じていた。でも、現実は少し違った。

ある日、大好きだった友だちが、何も言わずに急に連絡を絶ってしまった。理由も分からないまま、「わたしが何か悪いことをしたんだ」と自分を責めて、胸の奥にぽっかりと穴が空いた。その日から、期待することが怖くなった。期待すれば、その分だけ傷つく。だったら、最初からひとりでいたほうが楽だと覚えた。

そうしているうちに、「愛されたい」という気持ちを諦めてしまった。友だちが「大好きだよ〜」と言ってくれても、心のどこかで「どうして、わたしなんかに?」「どうせ、いなくなるものだ」と思ってしまう。差し出された気持ちを、素直に受け取れなくなった。

愛されるだけでは、孤独は解決されない。じゃあ、どうすれば、孤独から抜け出せるのだろう。

大学2年生の宮田は、家の生活費と、自分の学費を稼ぐためにほぼ毎日のようにコンビニバイトに明け暮れていた。そこで出会ったのは同じ大学で同じ学科の江永という派手髪の少女。2人はそれぞれ家庭環境に複雑な思いを抱えていた。ある日、宮田は母に自分で稼いだお金や奨学金をほとんど使われていたことを知る。ひとりで育ててくれた母に家族の愛を感じてはいたが、「愛だけ与えられてそれが何というのだろう」と感じた宮田は家を出る決意をする。そして宮田は一人暮らしをしている江永の家に居候することに。

「子どもの頃に手に入れそびれた自己肯定感を、どうやったら得られるのだろう」

宮田が、そう考える場面がある。その言葉は、わたしの悩みと重なった。

誰が悪いというわけではないけれど、自己肯定感の低さには、環境的な要因が大きいのではないかと思っている。宮田の家庭環境を見ても、それは感じられる。両親は小学一年生の頃に離婚し、唯一の親である母には浪費癖があった。宮田は、自分で稼いだお金を生活費に充て、家のことも担い、年齢より早く大人にならざるを得なかったのだろう。

人間は、たとえ家族でも、価値観が違えば理解し合えないことがある。それ自体は、仕方のないことだと思う。けれど、お金の自由も、行動の自由もない子どもにとって、家族は世界のほとんどを占める、絶対的な存在だ。その影響は、想像以上に大きい。

江永は、「家族」という言葉について、こう言う。

「アタシ的に、世界で一番嫌いな言葉かも。幻想な癖して、皆、持っていて当たり前みたいな顔してるから」

その言葉には、家族という枠組みの中で、苦しんできた痛みがある。

きっと「愛されたい」「満たされたい」じゃなくて……。

宮田と江永の、こんな会話がある。「二十歳になったら、人生が切断されると思ってた」という江永に、宮田は「自分のために頑張り続けられる限界が、そこら辺だと思っていたからじゃないかなって。いつでも死を選べるって思うことで、生きていられる人間って、結構いると思う」と声をかける。幸せじゃなくても、死にたいと思いながら生きていてもいい、という肯定だ。

宮田と江永は、一緒に暮らしていくうちに、傷を舐め合うのではなく、互いを認め合い、安心できる関係性を築いていく。そうして、二人は孤独から救われたのだと思う。

結局、孤独は、独りよがりでいたら、ずっと抜け出せない。わたしは、いろんな理由で拗らせて、独りよがりの世界に閉じこもってきた。だけど本当は、誰かに愛されることよりも、あの二人のように、自分の弱さごと、自分を認めてあげたかったのだ。

認めるのは、すぐには難しいし、誰かから与えられるものでもない。だけど、少しでも周りを信じてみるだけで、違う気がする。そのことに気づいた瞬間、見えている世界が、ほんの少し広くなった。

今回紹介した本

武田綾乃『愛されなくても別に』(講談社刊)

愛されなくても別に

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小春

小春(こはる) 2004年生まれ。大学生、書評アイドル。12歳からアイドル活動を始め、2017年〜『週刊読書人』でweb連載。「カンコー委員会」一期生、三期生(商品開発)の他、『NHK高校講座現代文』で生徒役を務めた。「ミスiD2021」では本と女優賞を受賞。大好きな本を中心に書評やモデル、俳優など幅広く活動中。

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