
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、妊婦と産科医の負担軽減、そして安心・安全な出産の実現に向けて独自の遠隔医療プラットフォームを開発するスタートアップ企業についてご紹介します。
12月3日は「プレママの日」
明日、12月3日は「プレママの日」です。この記念日は、玩具や子どもの衣類などを扱う日本トイザらス株式会社が制定したもの。12月3日は「ベビートイザらス」の国内第1号店がオープンした日で、語呂合わせで「いいにんぷさん」とも読めることから、2003年に一般社団法人 日本記念日協会の認定を受けて記念日としたそうです。
そこで今回、産科医療の分野で医師や妊婦の負担軽減をはかり、より安心・安全な出産環境の実現に向けて挑戦するスタートアップ企業をご紹介します。
日本における産科医療の課題
その前に、まずは日本が抱える妊娠・出産、産科医療の課題を見ていきましょう。
現在の日本では、少子化が加速していることに加え、女性の社会進出が進んだことなどが影響し、出産動向にも変化が生じています。厚生労働省(以下、厚労省)が公開している「第2回 小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」の資料によれば、近年は30歳未満で出産する人が減り、35歳以上で出産する人が増えているそうです。また、妊娠に伴う合併症も増加傾向にあるといいます。

その一方で、日本では産科医が常に不足し、出産できる施設も減少傾向にあります。例えば、2023年には東京都内のNTT東日本関東病院で産科医が産休や病休で半減し、約100名の妊婦が転院したことがニュースとなりました。
赤ちゃんはいつ生まれてくるか分からないもの。そのため、産科では24時間体制で医師や助産師の勤務体制を組みつつ、待機要員も設けなければなりません。近年は研修医から産科医になる人が増えているそうですが、不妊治療や更年期障害を専門としてお産を扱わない医師も増加しているそう。それゆえ、出産の現場で働く医師は常に人手不足で、労働時間が長くなるなど、厳しい就労環境となってしまっています。
さらに、産科の病院は物価高の影響も受けています。日本産婦人科医会によれば、赤字となる施設が増えているそうです。また、出産に対応できる医師が地域に偏在していることも大きな課題のひとつ。東京や宮城、埼玉、栃木などの大都市圏、あるいは大都市圏に隣接するエリアでは医師数を確保できていますが、地方によっては医師や助産師の数をしっかりと確保できていないところも多いようです。
テクノロジーで安心・安全な出産をサポート
そうした課題を踏まえて、産科医療の分野でテクノロジーを活用したサービスを開発・提供するスタートアップ企業が、メロディ・インターナショナル株式会社です。
同社は妊婦と胎児の健康管理に役立つデバイスとデータを集積・確認するシステム、分娩監視セントラルシステムを手がけ、それらを総合して周産期遠隔医療プラットフォーム「Melody i」を医療機関向けに提供しています。
妊婦が装着する「分娩監視装置 iCTG」と名付けられたデバイスは、軽量小型で、コードレスで使えるのが特徴。この装置で計測したデータは、医師がタブレットやスマートフォンなどでペーパーレスかつリアルタイムに確認できるといい、医療関係者の利便性を高めています。

また、分娩監視セントラルシステムはクラウド上でデータを管理できるため、必要なデータを医師が病院の外から確認したり、大規模病院と小規模クリニックでデータを連携したり、妊婦が自宅から健康データを取得・送信できたりする仕組みも構築可能なようです。
海外展開も実現
同社は国内の産科医療に貢献するだけでなく、日本のハイレベルな産科医療の仕組みを世界に届け、多くの妊婦が安心・安全に出産できる環境をつくるべく、発展途上国や新興国を中心に海外展開も積極的におこなっています。
政府機関などのプロジェクトに参加し、同社のサービスを活用しながら、これまでタイや南アフリカ共和国、ブータン王国、フィリピンなどで産科医療の発展に貢献してきました。
【プレスリリース】「ブータン王国における遠隔胎児モニターAI自動診断事業」令和6年度補正 グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金(経済産業省)に採択(20250801)https://t.co/eC5LszwLvR pic.twitter.com/bmiVbOZL32
— Melody International (@Melody_int_ltd) November 11, 2025
ものづくりに愛を注ぐ理系女性、2度目の挑戦
そんなメロディ・インターナショナルを立ち上げたのは、尾形優子さんです。尾形さんは、京都大学大学院工学研究科の出身。原子核について研究し、自らの手で何かを作り、そこから生まれてくるものを見ているのが好きな、実験に没頭している学生だったといいます。
しかし、女性の研究職の採用が少ないという時代の影響を受け、就職活動には苦戦。縁があったことから四国で就職したのち、産婦人科の電子カルテ事業で最初の起業を果たすこととなりました。1社目の事業をおこなうなかで、産科における医師の業務負荷の高さや病院数の減少、それに伴う妊婦の産科へのアクセスの悪化といった課題を発見。遠隔医療を取り入れることで、安心・安全な出産が実現できる環境を整えようと、2015年にメロディ・インターナショナル株式会社を立ち上げたそうです。
社会課題の解決にスタートアップ企業の力を
冒頭でも触れたとおり、日本の産科医療はいま、さまざまな課題を抱えています。そして、それらが複雑に絡み合い、産科医の業務負担と、妊婦の医療アクセスへの負担が増えてしまうという悪循環が起こっています。そうした課題をそのままにすれば、国内で安心して出産に臨める環境が減ってしまい、少子化がますます進んでしまうことにもつながりかねません。
テクノロジーで産科医療の課題に切り込むメロディ・インターナショナル。同社の事業内容を知れば知るほど、スタートアップ企業の力が社会課題の解決に向けて果たす役割と、影響力の大きさを改めて感じます。
Reference:
厚生労働省「令和6年(2024) 人口動態統計月報年計(概数)」
厚生労働省「安全性と持続可能性を考慮した周産期医療提供体制の構築について」
厚生労働省「将来の医師の多寡による医師の確保の方針及び地域枠 産科・小児科における医師確保計画 医師確保計画の効果の測定・評価」
公益社団法人 日本産婦人科医会「産科診療所の経営状況と今後の事業継続の見込みに関する調査結果」
Text:Teruko Ichioka






