Fashion&Culture

感性と現場のあいだ。洋服が商品になるまでの試行錯誤【KANEIが生まれるまで】

感性と現場のあいだ。洋服が商品になるまでの試行錯誤【KANEIが生まれるまで】

“最初の一着”が語り出すまで——サンプル制作という試行錯誤

デザインのイメージが、初めて「服」というかたちになる瞬間。それは、サンプルがあってくるときです。 図面や生地、ボタンなどバラバラのピースだったものが、生地と縫製によって服として立ち上がる。ワクワクするのと同時に少し緊張する瞬間です。

今回、シャツのサンプルをお願いしたのは、岐阜の実家近くにある、シャツに定評のある工場さん。扱いの難しいレーヨン素材だったにもかかわらず、驚くほど美しく縫っていただけました。丁寧な仕事に触れるたび、職人の手が宿すクラフトマンシップに感動を覚えます。

一方で、全てが順調に進むわけではありません。パタンナーが肩のラインを誤って設定してしまい、全体のシルエットに不自然な角度がついてしまったこともありました。結果、用意したサンプルすべてがやり直しに。時間も費用もかかっている分、正直なところダメージは大きいです。そうした失敗も含めて、ものづくりの現場にはアクシデントが常にあるもの。

でも、その時にどう早く対応するかも全てにで責任を追っているデザイナーの仕事だと考えます。

調整を続けて命を吹き込まれる色たち

KANEIというブランドにとって、「色」は単なる要素ではなく、服に命を吹き込むための核心的なアイデンティティです。

だからこそ、生地の色味に少しでも違和感があれば、そこから調整を重ねていきます。彩度や濃度、トーンのわずかなズレが、服全体の印象を左右します。

理想の色が得られないときは、既製の素材で妥協せず、生地そのものをデータから作り直すこともあります。時間も手間もかかりますが、それほどに「色」が、このブランドにとって重要な意味を持っています。

さらに、色と並んで服の印象を左右するのが「かたち」です。ファーストサンプルを元に、丈や身幅、肩の傾斜などを細かく調整しながら、パターンにも命を吹き込んでいきます。セカンド、サードと修正を重ね、ようやく「これだ」と思える一着に近づいていくのです。

色もかたちも、すぐに正解に辿りつけるものではありません。けれど、その調整を続けることで、服は徐々に命を帯び、KANEIらしい佇まいをまとっていきます。

「こうでありたい」という美意識を、色とかたちに落とし込んでいく——その根気のいるプロセスこそが、服を“作品”へと育ててくれる時間だと感じています。

どう見せて、どう活かすのか

服が完成に近づいてくると、次に考えるのは、「この服をどう見せるか、どう伝えるか」ということです。
KANEIでは毎シーズン、ルック撮影を通してブランドの世界観を最も濃密に表現しようとしています。

今回のテーマは、「目的なく旅をする」。

この曖昧で自由な情景をどう映し取るか、スタイリストやカメラマンと何度も打ち合わせを重ねながら、撮影の構成を練っていきました。モデルの選定からロケーションの選び方まで、すべてこのテーマに即して決めていきます。

服をただ着せるのではなく、目的や世界観に即した“演出”を施すこと。それができるのが、スタイリストというプロの存在です。今回もスタイリストが全体の演出を担ってくれたことで、自分ひとりでは気づけなかった視点やストーリーが加わり、服に新たな表情が宿りました。

なんでも自分ひとりで抱え込まず、プロフェッショナルに託すことで、アウトプットに広がりが生まれる。ときに自分の限界さえ超えるような表現に至ることもあります。それは、いまの自分が大切にしているスタンスでもあります。目指しているのは、誰もが見たことのない景色。

けれどどこか懐かしく、心にそっと残るような——そんなルックをつくることです。

想定外と向き合う

服が完成し、量産に入ると、また別のフェーズの現実が立ち上がってきます。この段階では、理想だけでは前に進めません。実際の現場では、資材の不足や納期のズレ、色味のブレなど、思わぬハプニングが次々に起こります。

たとえば、ある生地が数十センチ単位で足りなくなってしまったり、注文していた生地が在庫切れになっていたことに後から気づいたり。そんなときは、別の仕入れ先を探したり、代替案を練ったりと、スピードと判断力が求められます。さらに製品によっては、岡山の加工工場に送って仕上げをお願いすることもあります。ただし、化学的な加工はときに想定外の反応を起こすこともあります。狙っていた色に染まらなかったり、風合いが思っていたものと違ったり。そういうときは、工場の職人さんと密にやり取りしながら、理想に近づける方法を模索します。

量産は「服を大量につくる作業」ではなく、「理想に折り合いをつけながら、最大限の表現を目指す作業」だと感じています。最後まで“仕上げる”という覚悟が、ここでも試されるのです。

こうして、私の頭の中にあったアイデアが、多くのスペシャリストの手を通して命を吹き込まれ、やがてひとつの商品として姿を現します。初めて完成品を目にしたときの感覚は、何度経験しても特別です。嬉しさと、安堵と、そして次の責任があり、「つくる」だけでは、服は本当の意味で完成しません。

見えなかったアイディアを人とコミュニケーションを通じて、世界観を形にして伝えていく。この世界は物という非言語のものを作りますが、その周りにはたくさんの人がいて、言葉とコミュニケーションがあります。ファッションとはきっと、そんな無数のコミュニケーションの連なりなのだと思います。

次回は、いよいよ、バイヤーさんやショップさんにお届けします。

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Kanei Yamaoka

デザイナー

2002年、岐阜県生まれ。 幼少期から創作活動に没頭し、16歳でアートピースの鯉のぼりブランドを立ち上げる。京都の染色職人とともにものづくりを行った経験から、生地や染めに興味を持ったことからファッションの道を志す。 文化服装学院に進学し、在学中はコレクションブランドでのインターンを経験。その間に、手掛けた鯉のぼりのアートピースがGOOD DESIGN NEW HOPE AWARDを受賞し、KITTE丸の内での大規模展示やPaul Smith氏への贈呈を果たす。 2024年に文化服装学院を卒業すると同時に、東京都主催のNext Fashion Designer of Tokyo 特別選抜賞を受賞。2025年秋冬シーズンより、自身のブランド「KANEI」をスタートさせる。

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