
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、過酷な自然環境を生き抜くクマノミならではの生存戦略についてご紹介します。
年々頻度が増加している海洋熱波
近年、「海洋熱波」の発生回数が増加しています。
海洋熱波とは、数日から数年にわたってり海水温が急激に上がり、その状態が続く現象のことです。2025年4月14日に発行された機関紙『米国科学アカデミー紀要』で発表された論文によると、「1940年代以降、海洋表面の温度が極端に上昇する年間日数が世界平均で3倍に増加」していることが明らかになりました(Chikara & Ko, 2020)。さらに、インド洋の一部地域では、海洋熱波の日数が年間最大80日に達していることも分かっています。
海洋熱波は、海の生き物や資源にさまざまな影響を及ぼします。たとえば、海水温の上昇によって、サンゴの白化のような海洋生態系へのダメージが発生する可能性があります。また、海水温上昇でもともと住んでいた魚がいなくなり、水産資源が減少することも考えられます。そして、海から発生する水蒸気量が増加し、熱帯低気圧の発達を促進することにより、豪雨や豪雪、台風などの自然災害が強化されることもあります。
海が熱くなると、体を小さくするクマノミ
世界各地で課題となっている海洋熱波ですが、この問題をユニークな方法で乗り越えようとしている生き物もいます。それが、「クマノミ」です。鮮やかなオレンジ色の体に、白い帯模様が特徴のクマノミ。ピンとこない方は、ディズニー映画『ファインディング・ニモ』を例に挙げるとわかりやすいかもしれません。同映画では、クマノミの一種である「カクレクマノミ」が主役として登場しています。
そんなクマノミが、海水温の上昇により体長を縮めることを、イギリス・ニューカッスル大学のMelissa A. Versteegら(2025)が発見したのです。彼らは、2023年にパプアニューギニアのキンベ湾で海洋熱波が発生した際、同国の保護センターで134匹のクマノミを5か月間観察しました。1カ月ごとにクマノミの体長を測り、4〜6日ごとに水温も測定。すると、「134匹のうち約100匹の体の長さが縮み、熱ストレスから生き延びる確率も最大78%増加していた」ことが明らかになりました。
現段階では小さくなる原因の解明には至っていませんが、先述の科学者たちは、「食べる餌が少量で済み、生き物として使うエネルギーの節約になるからではないか」と予想しているとのこと。また、この現象は一時的なものであり、「環境ストレスの軽減に伴い体長も回復する」と結論付けられています。ちなみに、サンゴ礁に暮らす魚が環境変化により小さくなることが明らかになったのは、今回が初めてだそうです。
ほかにもある!驚くべきクマノミの生存戦略
実はクマノミの生存戦略は、体長の変化だけではありません。
たとえば、イソギンチャクを住処にして外敵から身を守る行為も、クマノミならではの生存戦略のひとつです。2025年に発表されたOISTに所属する研究者たちによって、「イソギンチャクには毒針があるが、クマノミの体は特殊な粘液で覆われているため、針に刺されることなく外敵から守ってもらえている」という仕組みが明らかになりました(Rouxほか, 2025)。
また、クマノミは、性別が社会的な順位により変化するユニークな魚です。どのように性別が決まるのかというと、群れの中で1位の個体がメスになり、2位の個体がオスになります。それ以外の個体は、未熟ではありますが、オスとメスの両方の性機能を持ち合わせているのだそう。
ちなみに、何らかの理由により1位または2位の個体がいなくなると、3位の個体の順位が繰り上がり、オスになります。そのほかにも、親ではないオスが卵のお世話をすることにより、外敵の多い海の中で生存率を上げようとしている、という話もあります。
小さな体で大自然の中を生き抜き、ひとつでも多くの個体を残そうとさまざまな環境適応の形を見せるクマノミ。体長の収縮や性転換などには、生命の神秘を感じた方もいるでしょう。水族館などで見かけたときは、ぜひ観察してみてくださいね。
Reference:
Chikara, R. K., & Ko, L.-W. (2020). Global Neural Activities Changes under Human Inhibitory Control Using Translational Scenario. Brain Sciences, 10(9), 640. https://doi.org/10.3390/brainsci10090640
Roux, N., Delannoy, C., Yu, S.-Y., Miura, S., Carlu, L., Besseau, L., Nakagawa, T., Sato, C., Kitajima, K., Guerardel, Y., & Laudet, V. (2025). Anemonefish use sialic acid metabolism as Trojan horse to avoid giant sea anemone stinging. BMC Biology, 23(1), 39. https://doi.org/10.1186/s12915-025-02144-8
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Text:Yuki Tsuruda