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存在自体がディスコ Gavin Turek「Diva Of The People」【21歳の音楽コラム 渡辺青のこれ聴いて!】

存在自体がディスコ Gavin Turek「Diva Of The People」【21歳の音楽コラム 渡辺青のこれ聴いて!】

21歳、東京の郊外でぽけ〜っと暮らす、音楽ナードの渡辺青が日々のDIGりの中で出会ったさまざまな「これ聴いて!」な音楽たちを、新旧問わずに紹介していく企画「渡辺青のこれ聴いて!」

6月、暑すぎます。もう何にもしたくない。クーラーの効いた部屋でダラダラしながら過ごしたい…..。しかし日々は過ぎ、人生は短い。ヘロヘロしてばっかいられない!ということで今回は、ディーバ・オブ・ザ・ピープルことGavin Turek、民衆の歌姫という通り名を持つ、現代のディスコクイーンを紹介します!アゲてくっきゃない!

LA育ちのディスコ・クイーン

 

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彼女を一目見れば、どんな音楽をしているのか一瞬でわかるはずだ。

1987年、LAに生まれた Gavin Turek(ギャビン・テューレック)は、ピアノを弾く父親と、ゴスペルを歌いながらカフェを巡る母親について回りながら育つ。兄弟と一緒に歌ったりダンスをしたり、パフォーマンスをすることは、子供の頃からとても身近なことだったという。

高校生の頃からクラブに出入りし、ダンスフロアとそのカルチャーに大きな影響を受けた彼女は、大学生のころから自らの音楽を作り始め、インドとガーナへ1年間のダンス留学などをしながら、アーティストとして本格的に活動をスタートさせる。

フューチャリングアーティストとしての活動や、2015年には長年の友人でもあるDJ・プロデューサーのTOKiMONSTAとのコラボレーションEP「You’re Invited」を発表するなど、シンガーとしてのキャリアを着実に作っていた彼女。

その知名度を大幅に上げることになるのが、現代ネオソウルを代表するアーティストのMayer Hawthorneと、De La Soul など大物アーティストたちと仕事をしたヒップホップ・プロデューサーJake One がタッグを組んだ、現代ディスコ最高峰ユニット、Tuxedoへのバックボーカルとしての参加。

まるでドナ・サマーのような、ディーバ味溢れるルックスや、太陽のようなスマイルにやられるファンが続出し、Gavin Turekは新世代のインディ・ディスコ・クイーンとして知られることになった。

Gavin Turek a.k.a Diva Of The People!!

2ヶ月間でほとんどの曲を書き上げ完成させたというのが、この「Diva Of The People」。「民衆のディーバ」というタイトルもすごいけれど、その言葉を乗りこなしてしまう説得力が彼女にはあると思う。

ディーバとはなにかをノリよく教えてくれるアカペライントロ、『Diva’s Gotta Div』から始まるこのアルバムは、ディスコミュージックという枠組みの中で、その多様な魅力を聴かせてくれる。

それはスムースなファンク調であったり、コズミックなバラードであったり、四つ打ちがガンガン聴いたアップテンポなものであったりする。なにも「ディスコ」というのは、Earth Wind & Fireの「バーリヤァ!」だけじゃないのだ。

70年代初頭、ニューヨークから多くのディスコクラブが生まれた。それはロックの死後、埃の積もったR&Bレコードの発掘に力を入れていたDJたちによって鳴り始めたフロアで、黒人ゲイコミュニティを中心に芽吹いた。フランシス・グラッソによるビートの途切れないDJプレイ。つまりビート・ミキシングがここで初めて生まれる。一晩中途切れない音楽。クラウドはDJの選曲に酔いしれる。ディスコは、DJが主役の音楽カルチャーとも言っても良いだろう。

鼓動と同じ、四つ打ちのリズムが主体のディスコミュージックは、そのノリやすさから世界に広がり、1000万人を踊らせ(いわゆるサタデーナイトフィーバーの時代)、儚くも10年足らずでその幕を閉じてしまった。

アンダーグラウンドから生まれたそれは、多様性に満ちていて、とても一言で表すことはできないが、愛と自由、そしてダンスに溢れたディスコという場所に、私は憧れてしかたない。

Gavin Turekのアルバムを聴いていくと、サンプリングやドラムの使い方から、70年代から80年代前半にかけて、ディスコカルチャーの最盛期であった「あの頃」感の再現にかなり力を入れていることがわかる。もし興味があれば、デビッドマンキューソやニッキー・シアノ、ラリー・レヴァンなどなど、当時のスターDJたちのプレイを動画サイトやレコードストアから探してみてほしい。

「なんだか懐かしい、この歌、前に聴いたことがある気がする。」そんな感覚と同時に、馴染みのない新しいなにかを両立する音作りがとても大事だったと彼女はあるインタビューで語っていた。

ノスタルジックさを大事にする音作りと、彼女のスウィートな歌声のシナジーはどこにいてもわたしをダンスフロアに連れて行く。

フェザーやスパンコールが沢山ついたギラギラ・ディスコファッションを身にまとう彼女が、少し年季の入ったようなステージで、スパンコールに照らされて歌い踊っている姿を思い浮かべてみると、映像や文章の中でしか見聞きしたことのないディスコという場所へ、なんだか感傷のようなものが込み上げてくる気がするのだ。

ギラギラブーツでやったりマスカラ!

そんなアルバムの中で、一番聴いて欲しいのがこの『Disco Boots』。

イントロからキラっとしたシンセに引き込まれるこの曲は、ダンスフロアの自由さや純粋に踊ることの喜びを、恋愛の痛みを通して伝えてくれる。

実際彼女の曲は、マッチングアプリで失敗したり、男性相手にぎこちなくなったり、上手く恋愛ができない経験から来ているものも多いという。

気分を変えて、アガる服を着て踊りに行こう。強気な感じでお尻を振って、痛みはこうして乗り越えんのよ。

そんな風に聴こえるので、なんてかっこいいんだろう!と憧れてしまうし、彼女が学生の頃に魅了されたディスコの美学の片鱗を味合わせてくれるような曲だと思う。そして、これこそディーバってやつなんじゃないかとも感じるのだ。

前述の『Diva’s Gotta Div』でGavin Turekはその精神性についてこう説明してくれている。

「Never perfect but complete」 ―全然完璧じゃない、でも完全なもの

そして、こうも言うのだ。

「Diva’s Everywhere!」 ―ディーバはどこにでもいる!

そう、みんなディーバなのだ。……と言うのは安直すぎる気がするが、自分の心の中にそんな部分があったらそれは素直に素敵なことだと思うし、なんだか自分に自信がなくなってしまった時なんかは、自分の中の仮想のディーバに、「ちょっとアンタ!背筋伸ばしてやることやんな!しっかりね!」なんて、襟元を正された気持ちになるってわけです。

まさにDiva Of The People! 一生ついていきたい。

彼女はこのアルバムについてこうも語る。

「このアルバムは女の子とゲイのものであることは間違いないのだけれど、いろんな人に聴いてもらいたい。」「老若男女を問わず、多くの人がこの作品を聴き、喜びを感じてくれることを願っています。」

まさにDiva Of The People!一生ついていきたい。

そう思わせてくれるGavin Turekはやっぱり偉大で、現代のディスコクイーン、そしてディーバとしての矜持を感じさせてくれるのだ。

ディーバ。それは自由を求めた人々のアイドルであり、心の拠り所でもあったのではないか?彼女たちがギラギラなディスコ・ブーツを履くように、わたしたちも自分サイズのシューズを履く。それは使い古しのコンバースでも、KEENのサンダルでもきっと良くて、自分にあった、自信を持てる格好で、心の中のディーバに恥じぬよう、今日もちょっと頑張ってみる。そんな感じ。

日本でもTuxedoに帯同して公演しているものの、ソロとしての来日ライブはまだ一度もない彼女。すっごく見てみたいが、実現するまでは自分の部屋の中で爆音で流しながら踊ってみよう。人目を気にせずガシガシ頭を振って、気分はディスコ。暑い夏が今年もそろそろやってくる、アスファルト地獄に辟易しているくらいなら、Gavin Turekの音楽を聴きながら、ディーバ気分で街を歩いてみるのも良いんじゃない?(とはいえ熱中症は本当に怖いので、水分補給と塩タブを忘れずに!)

引用
『Gavin Turek “Diva Of The People” CD(日本盤)』(P-VINE)
解説:黒田大介(kickin)
歌詞

Edit: Himari Amakata

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ライター

渡辺青(わたなべ あお) 2003年生まれ。家業の大家を継ぎつつシェアスペース「空き地さんかく」の主宰&レコード屋と古本屋で働くなど、一体何屋なんだか不明な生活を送る。2025年の目標は、DJをできるようになる事。

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