
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、5月20日に公開した記事に引き続き、日本最大級のスタートアップ展示会『Startup JAPAN 2025』で見つけた、いま注目のスタートアップ企業やプロダクトについてご紹介します。
大規模展示会『Startup JAPAN』で見つけた色とりどりの美しいプロダクト
5月8日~9日にかけて、東京・江東区の東京ビッグサイトで開かれた、国内外のスタートアップ企業が集う大規模な展示会『Startup JAPAN 2025』。筆者はこのイベントを5月8日に取材しました。20日に公開した記事では、同イベントで発見した、Z世代起業家による生成AIを活用した動画翻訳サービス「こんにちハロー」をご紹介。今回も、イベントで出会った魅力的な企業やプロダクトをご紹介していきます。
さまざまなスタートアップ企業が出展し、商談やサービス説明などを行っている会場。来場者の熱気にあふれた各ブースの間を歩いていくと、黄色やオレンジ、緑、青など、マーブル模様が美しい、色とりどりの皿やキーホルダーが展示されているブースを発見しました。近づいてみると、見えてきたのは「廃棄するしかなかったプラスチックを、価値ある製品へ生まれ変わらせる」の文字。一体どんな背景のあるプロダクトなのか、詳しく知るべく、ブースで来場者対応を行っていた方に話を聞きました。
捨てられたプラスチックが、思わず手に取りたくなる工芸品に生まれ変わる
今回、取材に答えてくださったのは、buoy株式会社 代表取締役の林光邦さん(写真右)です。
林さんは、展示ブースに置かれているキーホルダーや皿、コースターなどは「buoy(ブイ)」というブランド名で展開する製品で、すべてが「海岸に漂着した海洋プラスチックゴミ」から作られていることを教えてくれました。
「buoy」を手がけるのは、横浜のプロダクトデザイン会社「テクノラボ」発のプロジェクト。「捨てられたプラスチックから捨てられないプロダクトをつくる」をコンセプトに、2020年にブランドを始動しました。実はプロジェクト自体は2017年からスタートしており、技術開発に注力して取り組んできたそう。
製品の最大の特徴は、その美しい色彩と模様です。これは着色によるものではなく、すべて漂着したゴミそのものの色なのです。「さまざまな色のプラスチックゴミが、海岸にこれだけ落ちていたことを伝えたい」と考えたことから、着色を施さない、ゴミそのものの色を活かしたプロダクトが生まれたと林さんは語ります。
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海洋プラスチックゴミをこうした美しい製品に生まれ変わらせることができた背景には、buoy株式会社が取り組んできた技術開発がありました。
従来、プラスチックのリサイクルでは、材料ごとに分別する必要がありました。しかし、海洋ゴミはいろいろな種類のゴミが混じって漂着する上、塩や貝などが付着し、紫外線で劣化もしている状態となっています。そのままでは再生ができないため、これまでは埋め立てや焼却処分をするしかありませんでした。
そこで「buoy」は独自の熱プレス技術を開発。異なる種類のプラスチックを分別せずに成形する方法を確立しました。融点の高い樹脂はドット柄に、融点の低い樹脂は水彩画のような流れる模様になり、これらが組み合わさって偶然の美しいパターンを生み出します。「異なる物質が混ざり合うからこそ生じた模様」という、偶然が生み出した一点ものであることを楽しめるプロダクトです。
全国30団体と連携し、持続可能な仕組みを構築
「buoy」の事業モデルで注目すべきは、全国のボランティア団体との連携システムです。現在、30以上のビーチクリーン団体から海洋プラスチックゴミを買い取っており、2024年は年間で2631.02kgの海洋プラスチックゴミを製品に生まれ変わらせたといいます。
特に力を入れているのが島しょ部での活動です。「現在は日本の各島から海洋ゴミを買い取っていますが、できれば最終的には、その島にゴミを再生する仕組みを置き、『buoy』の製品を島のブランドとして立ち上げてもらえるようにしたい」と、林さんは将来構想を語ります。ゴミをお金をかけて島の中から運び出すのではなく、ゴミをもとにしたプロダクト製造という島の新たな仕事につなげる。そして、完成した製品をお土産として多くの人が購入することで地域支援にもなり、最終的には環境保全にもつながる。「buoy」はそんな持続可能な仕組みの構築を目指しているのです。
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なお、製品には必ず海洋ゴミの採集地を記載。QRコードから回収活動を行った団体の情報を見ることができます。購入者と採集者をつなぐ仕組みも作り上げています。
使い捨て文化を変える「付加価値」の創造
「buoy」が目指すのは、プラスチックとの新しい付き合い方の提案です。「プラスチックは便利な素材で、高齢の方が長持ちする個食パックを利用できるなど、人々の暮らしが便利になるきっかけを生み出しています。でも同時に、それが不適切に処理されてしまうと様々な地域の人が困ってしまう。捨てられたプラスチックをもう一度社会に戻す仕組みができれば、次の世代もプラスチックと上手に付き合っていけるはず」と、林さん語ります。
海洋ゴミをもとに作った製品は、石油から作ったプラスチック製品と同じクオリティにはなりません。ですが、誰がどこで拾ったかという背景ストーリーと、ひとつひとつ異なる模様によって付加価値を創出。大量生産品ではなく、世界にたった一つの工芸品として位置づけることで、安易に捨てられるものではない特別な価値を持たせ、使い捨て文化からの脱却を目指しています。
大手企業も注目し、万博での活用も実現
ちなみに大阪万博では、大手企業と連携し、対馬で拾ったゴミを使った装飾を手がけたそう。現在は横浜に工房併設店をオープンし、月数回のワークショップを通じて海洋プラスチック問題への理解促進にも取り組んでいます。
「buoy」は2028年に年間100トン、2033年に年間3,000トンの海洋プラスチックゴミの製品化を目標に掲げています。島しょ部や地方でのゴミ再生・リサイクルの仕組みづくりを全国各地に広げていく構想です。
次回は、韓国発スタートアップ企業をご紹介!
『Startup JAPAN 2025』では、韓国発スタートアップ企業によるプレゼンテーションイベントも行われました。6月3日公開予定の記事では、同イベントの中で特に注目したいと感じた企業を複数社ご紹介します。お楽しみに!
Text:Teruko Ichioka