
「気になる10代名鑑」の981人目は、和佐間芽弥さん(19)。社会で声を挙げられないひとに寄り添う小説を書くことを目指し、大学で社会学を学びながら、いまはダンスやアート鑑賞から創作の基盤をつくろうとしています。母との別れが価値観を変えたという和佐間さんに、当時の心境や今後の夢について詳しく聞いてみました。
和佐間芽弥を知る5つの質問
Q1.プロフィールを教えてください。
「おもに小説を通じて、社会の中で声を挙げることが難しいひと、当たり前に逆らって生きざるを得なかったひとたちに焦点を当てたいと考えています。そのために執筆活動とあわせて、いまは大学で社会学も勉強をしています。
書く仕事を選択したのは、わたしにとって言葉がすごく大切な存在だから。ワンフレーズで心が動いたり、傷ついたりしてしまう。それを痛感するような人生を送ってきたので、逆に言葉という媒体を通して、みんなに思いを伝えようって思ったのがきっかけです。
でも、言葉を扱った作品をつくりたいなら、それに縛られない価値観も持つべきだと思っていて。最近では現代アートの展覧会に足を運ぶことも多いです。言葉がなくても通じるものはあるけど、逆にどんなことなら言葉でないと表現できないのか。影を知ることで、光を知るような感覚を身につけられるような気がします」
Q2.影響を受けた人物は?
「わたしが8歳のときに他界した、母です。
シングルマザーとして、わたしを育ててくれた母がいなくなったとき、突然自分の世界がなくなってしまったような感覚になりました。母の葬式には700人くらいのひとが集まって。母はこんなに影響力があるひとだったんだって思うのと同時に、育児という時間で、このひとの将来の可能性を潰してしまったんじゃないかなっていうのをどんどん考えるようになってしまったんです。そこから、自分の存在意義や、母から何を引き継いで生まれてきたんだろうといったことをを子どもながらに思考してきました。
当時、同級生の子に『あなたがお母さん死んじゃった子?』って聞かれたのがすごい印象に残っています。わたしは、それが事実だからあまり傷ついてなかったんですけど、周りの大人にはそれは良くない言葉だから、素直に受け入れるなって言われたんです。
でもその言葉って事実と何が違うんだろうかとか、感覚のズレに悩んでしまって。わたしの当たり前の感覚は知らないうちに誰かを傷つける武器になってはいないかと考えるようになりました」
Q3.活動をしている中で、印象的だった出来事は?
「高校2年生の時に書いたショートエッセイが、『日本語大賞』というエッセイコンクールで文部科学大臣賞を受賞したことです。
推薦入試を受ける予定だったので、面接や志望理由書のためにも自分自身と向き合う時間を取ろうと思い、書いてみたんです。コンクールに応募したのはそのついでのようなものだったのですが、受賞をきっかけに、先生や家族にも作品を見せないといけなくなって。
日記を読まれるみたいで恥ずかしかったですが……(笑)。でも、過去を振り返って自分を考え直すきっかけになりましたし、共感や反応をもらえたことで、わたしの文章が誰かの糧になればと思うようになりました」
Q4.自身のクリエイティブに影響を与えたものは?
「細田守監督の『サマーウォーズ』と、米林宏昌監督の『思い出のマーニー』です。どちらも母を亡くしたあとに見た作品です。『家族っていろんな形があるんだ』と気付かせてくれました。母の亡き影しか見ていなかった私だけれど、ちゃんと他の家族にも愛されていたことを思い出させてくれたんです。
多分、これらの作品は家族愛がテーマにされていて、失ったものを慰めるための作品ではないと思うんですよね。だけど私は、その作品に慰められた気がしたんです。だからこそ、メッセージはひとつじゃなくて、観るひとによって色んな角度から影響を与えるような作品を創りたいと考えるようになりました」
Q5.将来の展望は?
「教員か、専業作家か、社会学者か、まだ決まってはいません。どんな道を選んでも、小説を世に出したいと思っています。社会には、声を上げたくても上げられないひとがいること。それ自体を社会に訴えかける文章を書くことが夢です。
『ボールルームへようこそ』という漫画と、母がダンサーをしていたことに影響を受けて、大学では競技ダンス部に所属しています。男女で踊るダンスは、パートナーと喧嘩するとか、ふたりの価値観の違いだとか、とても物語性があって創作活動の材料にもなっていると思います。
本や映画のような作品をインプットするだけじゃなく、自分が体験したもの自体がいつか小説の種になると信じて、いまは下積みの期間という認識で頑張っています!」
和佐間芽弥のプロフィール
年齢:19歳
出身地:千葉県松戸市
所属:千葉大学文学部人文学科・競技ダンス部
趣味:読書、映画鑑賞、アニメ漫画、社交ダンス
特技:お話しすること!
大切にしている言葉:「まぁ、いっか!」
Photo:Nanako Araie
Text:Yuzuki Nishikawa