
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、アフリカにおける性教育の課題と、若者の健康のために活動する組織について紹介します。
アフリカの10代女性は約半数が妊娠を経験している
アフリカでは、多くの若者が十分な性教育を受けられず、深刻な課題に直面しています。
ユニセフによると、東アフリカと南アフリカに住む若い女性の32%が児童婚を経験し、アフリカ全体では10代女性の3分の1が妊娠を経験しているそうです。さらに、10代女性のほぼ半数が意図しない妊娠を経験し、そのうちの26.3%が中絶を選択しているというデータもあります。
若年での出産は、死産や合併症といった健康リスクが高くなるだけでなく、学業の継続や社会的なつながりを絶たれる要因にもなっています。「包括的性教育(CSE)」を広めることは、若者の健康や教育機会を守るために欠かせません。
そこで近年、サハラ以南のアフリカでは、性教育やリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に関連した国際会議が開かれ、包括的性教育(※)の普及が積極的に進められています。
※包括的性教育とは:ジェンダー平等や性の多様性、人権を尊重する観点から、生殖や性交だけでなく人間関係を含む幅広い内容を学ぶ教育のこと。
性教育の普及をはばむものとは
しかし、宗教や資金の問題などにより、性教育の実施が難しいケースもあるのが現状です。
特に、宗教と性教育は一筋縄ではいかない問題のひとつ。アフリカ大陸では、多くの地域で暮らしの中に宗教が根付いています。人々が信仰する宗教は多種多様です。キリスト教やイスラム教などの伝統宗教はもちろん、古来より信じられてきた呪術や在来信仰なども信じられています。それらの宗教の中では、「性」や「生殖」に関して多様な解釈が存在しています。宗教ごとに真逆の立場をとることもあり、政府や教育関係者、保護者の間で「どのような内容の性教育を、どこまで教えるのか」という点で、意見が大きく分かれてしまうのです。
また、「婚前交渉をしないことは当たり前」という認識のもとに、性教育は必要ないと考える人もいるそうです。さらに、一部のアフリカのコミュニティでは、性に関する教育は結婚直前に叔父や叔母などの親戚から受けるものだという認識が根強くあります。地域によっては「漂白剤が中絶薬になる」といった誤った情報が信じられていることもあります。
実際、筆者のモロッコ人の友人に「学校で性教育を受けたか」と尋ねたところ、「性教育には一切受けておらず、家族や周囲の人からも教えられたことはない」と話してくれました。
性教育の普及には、地域差もあります。筆者が住むウガンダでは、宗教団体が政治に与える影響力が強まる中、2016年に政府が学校での包括的性教育を禁止しました。それを受け、市民社会団体が政府に対して性教育の導入を求める訴訟を起こしたこともありますが、状況は改善していません。
ウガンダで包括的性教育の普及に取り組むRAHUとは?
学校内で性教育に取り組むことが困難な場合も多いことから、アフリカでは性教育の普及に第三者組織が大きな役割を果たしています。
2010年に設立されたリーチ・ア・ハンド・ウガンダ(以下、RAHU)は、15歳〜19歳の少女のうち19%が出産を経験しているウガンダで、若者のエンパワーメントプログラムを提供する組織です。
View this post on Instagram
RAHUの設立者であるハンフリー・ナビマーニャは、HIV陽性の保護者のもとで育ち、差別を経験しました。その経験から、すべての若者が性や生殖に関する正確な情報にアクセスできることの重要性を感じ、RAHUを設立しました。
RAHUでは、月経や衛生、10代の妊娠について教えるプログラムを展開。また、地域ごとに選ばれた若者に対し、性教育をおこなうスキルを訓練するプログラムを提供したり、医療機関と連携してHIV検査やカウンセリングなどを受けられるサービスを提供したりしています。公衆衛生施設と協力して家族計画に関する認識を広めるプログラムなども実施。
さらに、性教育では、性に関する知識を学ぶだけでなく、相手を尊重するコミュニケーションや主体的な意思決定の大切さを学ぶことも重要です。そうしたプログラムも含めながら、RAHUはさまざまな方法で包括的性教育に取り組んでいます。
View this post on Instagram
RAHUは現在に至るまで、943人の性教育の教育者を訓練し、120万個以上のコンドームを配布、11万件以上の家族計画に関するサービスを提供してきました。そして、2016年には、ウガンダにおけるUNFPA(国連人口基金)の最初で唯一の若者主導の実施パートナーになりました。
多面的なアプローチが重要
アフリカで大きな課題となっている性教育。性教育といっても、生殖や避妊の方法だけでなく、性的権利、価値観、セクシュアリティ、性感染症、中絶、家族計画、多様性の尊重、女性器切除など、あらゆるトピックが挙げられます。宗教や神話が信仰されるアフリカでは、地域によってそれぞれの捉え方は異なります。だからこそ、すべてを否定することなく、まずは一度受け止めて、あらゆる立場の人に受け入れてもらいやすい多面的なアプローチを探る必要があるのではないでしょうか。
References:
UNICEF「Child marriage in Eastern and Southern Africa」
PMC「Teenage pregnancy and its predictors in Africa: A systematic review and meta-analysis」
Reach a hand「IMPACT」
Reach a hand「ABOUT」
Text:Hao Kanayama