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列車のブレーキが街の電気を作り出す?スペインの「MetroCHARGE project」に注目【Steenz Breaking News】

列車のブレーキが街の電気を作り出す?スペインの「MetroCHARGE project」に注目【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、スペインでおこなわれている、列車のブレーキを活用した電気エネルギーの生産・活用プロジェクト「MetroCHARGE project」についてご紹介します。

列車のブレーキが電気を生む?スペインで広がる「MetroCHARGE project」

近年、スペイン・バルセロナでは、バルセロナ交通局(TMB)が地下鉄を活用したサステナブルな取り組み「MetroCHARGE project」を進めています。このプロジェクトは、地下鉄を動かす運動エネルギーを発電に用い、駅や電気自動車(EV)の電力供給に役立てるというものです。

この取り組みで鍵となるのが、列車に搭載された「回生装置(かいせいそうち)」です。この装置を使うと、列車の運動エネルギーを電気エネルギーに変換することができます。

列車が動くということは、そこに運動エネルギーが生じているということです。従来のブレーキは、車輪に摩擦を起こし、運動エネルギーを熱エネルギーに変えることで列車の動きを停止させていました。しかしこの方法では、運動エネルギーはただ熱となって空気中に放出されるだけです。せっかく発生させた運動エネルギーが最終的には無駄になってしまいます。

そこで取り入れられたのが、回生装置です。列車がブレーキをかけたときにこの装置を作動させ、運動エネルギーを電気エネルギーに変換することで、電車を止めると同時に、各所で利用可能な電力を生み出せるようになりました。

なお、この装置は、バルセロナでは数十年前から導入が進んでいたといいます。EVを利用する人が増えたことで、駅で完結していたエネルギーの再利用を、さらに範囲を広げて地域のEV充電にも活用できるようになったこと。これが今回のプロジェクトのポイントです。

プロジェクトの成果は?

バルセロナの地下鉄で変換された電気エネルギーは、太陽光発電システムで生み出された電力とともに、列車の動力源や、照明やエスカレーターといった駅構内の電力源にもなっているとのこと。また、地上にあるEV専用の充電ステーションにも電力が供給されているそうです。このシステムは現時点で、バルセロナ市内の16駅で稼働しています。

では、「MetroCHARGE project」は、具体的にどのような成果が出ているのでしょうか。まず、現地メディアの報道によれば、本プロジェクトによって変換された電気エネルギーは、バルセロナ市内の地下鉄163駅のうち28駅分の電力をまかなっているといいます。加えて、列車走行に必要な総エネルギーの41%分の電力を発電し、年間約3,885トンの二酸化炭素が削減されたそうです。

また、いままでブレーキ時に放出されていた熱を減らすことができたため、駅構内の温度上昇を抑制する効果もみられています。実際に、「MetroCHARGE project」導入後、駅の室温が約1.8度低下したとのこと。エネルギーを有効活用できているだけでなく、駅利用者の快適性向上にも大きなメリットがあるようです。

さらに、副次的なメリットとして、プロジェクトを推進するために多くのエンジニアや作業員が必要となったことから、新たな雇用創出にもつながったそう。そして、プロジェクトの中で新たなEV充電ステーションが相次いで建設されたため、バルセロナ在住のEV利用者の利便性は徐々に高まっていると言えます。

解決しなければならない課題も残っている

さまざまな利点がある一方で、地下鉄が生み出した電力を利用する観点では、まだ解決すべき課題がいくつか残されています。そのひとつが、EVの充電ステーション設置場所の確保です。スペインでは当初、政府が「2021年までにスペイン全土10万カ所に充電ステーションを設置する」という目標を掲げていました。しかし現時点の設置数は、当初の予定の半分にも満たない3万7000カ所となっています。

ふたつ目の課題は、EV利用者数の伸び悩みです。プロジェクトの運営費用はEV充電の利用料金(1キロワット約33セント)で賄われるため、安定的な財源確保にはEV利用者の増加が不可欠です。しかし、スペインではEVの利用者が、自動車利用者の11%にとどまっています。欧州諸国と比較し、EVがさほど普及していないのが現状です。

日本での導入も?

回生装置を使用した電車での電力創出は、1930年代からすでに日本でもおこなわれています。例えば、鉄道各社が駅構内の照明や空調、あるいは一部路線の列車の運行に活用しています。また、スペインのように、列車から生み出された電力をEVバスの充電に活用する実証実験などもおこなわれた地域があるようです。将来的な化石燃料の枯渇が予測されている昨今。スペインの「MetroCHARGE project」から、エネルギーを小さな地域の中で循環させていく新手法を学ぶことができたように思います。こうした事例が今後、世界各国で増えていくのかもしれません。

Reference:
回生装置|環境ビジネスオンライン
Barcelona subway recycles energy from braking into power to charge electric cars|Associated Press
Barcelona’s metro trains are helping to charge the city’s EVs each time they brake. Here’s how|euronews
Spain Has 11% Plugin Vehicle Share — New Monthly Market Share Report | European Alternative Fuels Observatory

Text:Yuki Tsuruda

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Yuki Tsuruda

ライター

鹿児島県在住のフリーライター。販売職や事務職を経験後、2020年5月からフリーランスのライターへ。執筆ジャンルは、ものづくりやSDGsなど。

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