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政府が土地を差し押さえやすくなる法律は公平?南アフリカでアパルトヘイト後も続く土地問題を考える【Steenz Breaking News】

政府が土地を差し押さえやすくなる法律は公平?南アフリカでアパルトヘイト後も続く土地問題を考える【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、2月2日にアメリカのトランプ大統領が南アフリカ向けの資金援助の停止を発表したことを受け、関心が高まっている南アフリカの土地問題についてお伝えします。

私有地を国が勝手に収容可能に? 南アフリカでいま、何が起こっているのか

アフリカ大陸の中でも高い経済力を誇る、南アフリカ共和国。南アフリカと聞くと、「アパルトヘイト」という言葉や、同国初の黒人大統領でノーベル平和賞を受賞したネルソン・マンデラなどを思い浮かべる人が多いでしょう。また、近年では、アフリカ大陸で唯一同性婚を合法化するなど、人権に配慮した国としても知られています。

そんな中、南アフリカで2025年1月、公共の利益が目的であれば国が補償なしに私有地を収用できる「土地収用法」が成立しました。これを受け、アメリカのドナルド・トランプ大統領(以下、トランプ氏)は白人の権利を無視しているとして非難し、話題になっています。

こうした法律ができ、世界を巻き込んだ論争を招いている背景には、アパルトヘイト時代に南アフリカで制定された不公平な法律や制度が影響しています。

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アパルトヘイト撤廃後も残る土地問題

そもそも、アパルトヘイトとは、1948年に制定され1994年まで続いた人種隔離政策のことです。人口の大半を占める非白人系南アフリカ人に対して、白人系の南アフリカ人とは別な地域に住み、別な公共施設を利用するよう義務化。白人と非白人が接触しないように、住宅や学校、公共サービスなど、ありとあらゆる場面で人種が隔離されていました。

こうした政策の礎となっていたのが、1913年に制定された「原住民土地法」です。これは、南アフリカの土地の80%以上を人口の少数である白人のために確保するというもの。政府は、白人向けと指定された地域で黒人が土地を購入したり、借りたりすることを禁じました。

その後、1994年にアパルトヘイトが廃止されましたが、原住民土地法の影響は現在も色濃く残ってしまっています。南アフリカ政府によると、南アフリカの人口の約7%が白人で、黒人の人口は約81%であるにもかかわらず、白人が所有する農場は全体の約72%で、黒人が所有するのはたったの約4%だというのです。南アフリカ国内では、こうした状況を解消すべく、これまで何度も土地の再分配に向けて様々な策が議論されてきましたが、失業率が約32%という深刻な雇用問題のほうが政策として優先されるなど、大きな改善はされてきませんでした。

その結果、白人が多く住むプール付きの豪邸が立ち並ぶ住宅街の横に、黒人が多く住むスラム街が広がっているという異様な光景が今でも残っています。

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筆者は以前、アパルトヘイト時代に黒人居住区であった「ソウェト」という街に滞在していたことがあります。その際、街中では黒人しか見かけないのにもかかわらず、長年放置されている空き地が白人の所有地であるといった光景を目にしたのをよく覚えています。

土地収用法の成立をきっかけに巻き起こる議論

このような格差を是正する目的で成立したのが、「土地収用法」なのです。この政策に対して、南アフリカ国民は一定の評価をしているようです。

しかし、同じ物事であっても、立場が変われば見解や意見は大きく変わります。

アメリカでは、トランプ氏が土地収用法の成立に反発。貧しい国からの移民に対して厳しい姿勢を取りながらも、南アフリカの欧州系移民(アフリカーナ)の米国への受け入れに関しては、難民事業を通じて支援すると発言しています。また、トランプ氏の支持者であるイーロン・マスク氏も「なぜ露骨な人種差別的な法律を成立させたのか」と発言しました。

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さらに、トランプ氏は2月7日、南アフリカへの援助や支援を停止する大統領令に署名しました。南アフリカはアメリカからの援助をもとに、HIV/AIDS患者の治療などの医療サービスを提供しています。そのため、今回の援助停止によって、患者の治療が滞ってしまうのではないかと懸念されています。

南アフリカ外務省はトランプ氏の発言に対し、「南アフリカの植民地主義とアパルトヘイトを正しく理解していない」と批判しています。

公平・公正とは何かを考える

みなさんはいま大きな話題を呼んでいる「土地収用法」についてどう考えるでしょうか。アパルトヘイト時代に奪われた黒人の土地の所有権はどう取り返すのか。一方で、今回の法律は白人への逆差別にはならないのか。アパルトヘイトという歴史がある南アフリカにおいて、公平および公正とは何を指すのか考えていく必要性があるでしょう。

References:
African Union「AUHRM Project Focus Area: The Apartheid」
Britannica「apartheid」
TRADING ECONOMICS「South Africa Unemployment Rate」
South African Government「People of South Africa」
South African Government「Land reform」
VISUAL CAPITALIST「Mapped: Just Five Countries Make Up Half of Africa’s GDP」

TextHao Kanayama

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Hao Kanayama

ライター

16歳、初アフリカ大陸上陸。19歳、アフリカ10か国放浪。20歳、ウガンダ移住。ウガンダの現地の会社とNGOの職員として、ストリートチルドレン、シングルマザー、薬物中毒者、孤児の支援を行う。不条理で不都合な世界だけど、その先にある希望を求めて歩き続ける、アフリカの人々の暮らしをわたしの目線から伝え続けたい。少数民族と木登りとテクノがスキ。

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