
2024年、SNSを中心に、自然豊かな場所を好む「自然界隈」という言葉が流行しました。「#自然界隈」というハッシュタグを目にした方、実際にそうした投稿をしていた方も多いのではないでしょうか。キャンプや登山などのアクティブなものに限らず、森を散策して癒しを得る森林浴など、自然の中で日ごろのストレスを癒やす過ごし方が世代問わず求められているようです。
「#自然界隈」は東京のど真ん中でもできるって本当?
自然豊かな場所は、ただ歩いたり、自然の音に耳を澄ませたりするだけでも気持ちが穏やかになるもの。実は、東京の都心にも、それを叶えられる場所があるのです。
東京駅や皇居のほど近く、大手町駅から直結の38階建て高層ビル「大手町タワー」。そのふもとに広がるのが、広さ約3600㎡の「大手町の森」です。11年前のタワー開業と同時に作られた人工の森ですが、まるで本物の森のように、多くの植物や生物が暮らしています。
夏には森のほとんどが日陰になるほど緑が生い茂り、秋や冬には常緑樹が木漏れ日を作って、落ち葉や紅葉も楽しめます。なんとここには、200種以上の植物が生息しているのだそうです。鳥などの動物も多く、確認されているのは13種。メジロやヒヨドリなど市街地でもよく目にするものから、ハヤブサやタカといった大型の猛禽類まで生息しているというのだから驚きです。彼らにとって、高層ビルは崖のように見えているそう。運が良ければ、ビルの上から、下にいる虫や小動物を狙って滑空する姿が見られるかもしれませんよ。
ベンチもたくさん設置されていて、散歩の途中で休憩したり、食事を楽しんだり、過ごし方はさまざま。オフィス街なので、心地よい木漏れ日の下でPCを開いている人も。人が心地よく生活でき、植物や動物も住みやすい、そんな環境が実現されているようです。
山から移植!?「大手町の森」ができるまで
都心に人工的に作られたにもかかわらず、「大手町の森」がこんなにも豊かな生態系に恵まれているのには、理由があります。
「大手町の森」を手がけた東京建物株式会社(以下、東京建物)はあらゆる森林で調査をおこなった結果、“本物の森らしさ”を「競争しながら、共存している姿」だと定義し、「疎密」「異齢」「混交」という3つのキーワードに辿りついたと言います。
簡単に説明すると、「疎密」は木が均一に植えられているのではなく、密集した場所と、そうでない場所がさまざま存在していること。陽のあたる場所とそうでない場所ができた結果、光を好む植物と、光を必要としないシダなどの植物などの多様性が生まれました。また、生まれたばかりの細い木から、どっしりと太い高齢の木まで、さまざまな年齢の木が存在している「異齢」、常に葉がしげっている常緑樹と、季節によって葉を落とす落葉樹がどちらも育っている「混交」もまた、植物の多様性を支えています。
これらを実現するため、東京建物は、千葉県君津市の山に「大手町の森」の1/3ほどの大きさの検証用の森を作り、3年かけて検証したそうです。「大手町の森」の下には地下街が広がっているため、コンクリートの上に土を敷き、植物を育てているのですが、君津市の検証用の森も、そうした条件を再現。実際の生育状況を見ながら管理方法などを模索し、土壌や植物の種類に改良を加えていきました。
実験の期間を経て、検証用の森はそのまま大手町に移植され、いまに至ります。当初は117種類の植物からスタートしましたが、森に集まってきた鳥や小動物が種を運び、森が育て、一時期は300種に及んだこともあるのだそう。
こうして育まれた「大手町の森」は人々に癒しを与えるだけでなく、都市部の気温が上昇するヒートアイランド現象や、豪雨による被害の緩和にも役立つのではないかと言われています。
都市の再生には、自然の再生が不可欠
第二次世界大戦後の急激な経済成長の影響で、都市化が進んだ日本。一方で、緑やオープンスペースの減少、慢性的な交通渋滞など、それによる課題も山積しています。そうした中で、都市を拡大するのではなく、都市そのものに目を向けてさまざまな課題に対処していく「都市の再生」の重要性が、日本全体のミッションとして掲げられています。
東京建物は「都市の再生」において、新たなビルの建設や都市機能の整備だけでなく、都市の緑化や生物多様性へのアプローチが必要だとして「大手町タワー」および「大手町の森」を作りました。開発コンセプトは、「都市を再生しながら自然を再生する」。そこに欠かせないもののひとつが、森に集う人々の過ごしやすさです。「大手町の森」の地下には、大手町駅直結の商業施設「OOTEMORI」や、森を見ながら屋内で休める「森のプラザ」があるほか、森があるからこそできるさまざまなイベントやワークショップが開催されています。
身の回りに情報やデジタルガジェットがあふれているいま、都心に住む人にこそ、積極的に自然に触れることが必要なのかもしれません。植物の色や空気の匂いで季節を感じたり、鳥の声に癒されたり……。都心の森を気軽に訪れて、そんな体験をしてみてはいかがでしょうか。
「大手町の森」詳細
〒100-0004 東京都千代田区大手町1丁目5-5
大手町タワー 1F・B1F
Photo:Hiyori Fujimura
Text:Kyoko Onishi