世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、南アフリカの近年の社会状況について、アフリカ在住のZ世代ライターが取材した内容をお伝えします。
ネルソン・マンデラの人気が急降下中?
著名な南アフリカ人として、日本でもよく知られているネルソン・マンデラ(以下マンデラ)。1948年に制定され、1994年まで続いた人種隔離政策「アパルトヘイト」の撤廃に貢献し、ノーベル平和賞を受賞しました。偉大な功績を残した人物として知られるマンデラですが、近年、南アフリカでは若者を中心に、マンデラは英雄ではないと考える人が増えています。今回はそのワケを、南アフリカ人に取材しました。
アパルトヘイトとは?
人種隔離政策「アパルトヘイト」では、白人、カラード(混血の人種)、インド人、アフリカ人で人種を分類し、人種ごとの居住区を指定。白人が都市の中心部に住む中、黒人の居住地は鉱山といった危ない地域の近くなどに限定されました。さらに、学校や役所、レストラン、教会、バス、トイレなどあらゆる公共施設が「白人専用」と「非白人専用」に分離され、「非白人」からは参政権も奪われました。
そうした中で、アフリカ民族会議(ANC)といった政治的な独立をめざす黒人運動組織が生まれ、当時25歳であったマンデラも、ANCに参加します。ANCは基本的人権の尊重を掲げ、反アパルトヘイトを主導していました。しかし、1960年、ANCが非合法化されたことを受け、マンデラは国家反逆罪により27年間をケープタウン沖の島の牢獄で過ごしました。
釈放されたとき、彼はすでに71歳でしたが、マンデラの黒人解放運動に対する熱は消えておらず、アパルトヘイト撤廃に尽力し、ノーベル平和賞を受賞しました。
1994年、南アフリカで初めての全人種が参加した選挙で、マンデラは初の黒人大統領に就任。人生を懸けて人種差別に戦った英雄として世界に知られ、マンデラ率いるANCもまた、アパルトヘイト撤廃以降、与党として政権を維持してきたのです。
アパルトヘイトを経験していないボーン・フリー世代の苦難
しかし、アパルトヘイトから30年経った2024年の選挙で、ANCは初の過半数割れとなりました。「マンデラは英雄ではない」と口にする若者も、増えているといいます。
アパルトヘイト時代に黒人居住区であったソウェトに筆者が滞在していた際、友人たちが口をそろえて「ネルソン・マンデラは好きではない。彼がやったことが、本当に良かったとは思えない」と言っていたことが衝撃でした。
その発言の背景には「最悪な雇用不足と、いまもなお続く土地問題」があるようです。
南アフリカは、現在、世界でも最悪レベルの失業率である33.5%を記録しており、多くの失業者がギャングなどに加わって犯罪を犯していると言います。また、人種による土地問題も残っており、人口の79%が黒人であるにも関わらず、いまだに70%以上の土地を、白人が所有しているのです。
さらに、南アフリカでは電力が安定的に供給できず、2023年にには年間で300日以上が停電するといった深刻な停電問題を抱えています。しかし、近年になって、与党であるANCと電力会社の癒着が発覚。現地では、ANCの政治家の汚職と停電問題の関係について、報道されています。
上の世代には、ANCは「ネルソン・マンデラが率いた正義の政党」と思っている人が多いようですが、アパルトヘイトを経験していない若い世代にとっては認識が異なります。彼らにとって、ANCは英雄ではなく、汚職問題や雇用問題といった負のイメージが強くなっているのです。
2024年の選挙において、ANCは最悪の支持率となる40%を記録。白人主体の中道右派である民主同盟(DA)が、次いで21%という結果になりました。現地でおこなった取材では「いままで絶対的な支持政党はANCだったが、経済が良くなったとは思えない。新しい投票先を考えるようになってきた」と話す人も。過去の実績ではなく、雇用や貧困といった問題の解決が見込めるのか、といった本質的な部分が重視されるようになってきているのかもしれません。
雇用問題と貧困格差といった多くの社会問題を抱える南アフリカ。今後の経済の行方や、政治がどう変わっていくのか、これからもさまざまな視点から注目していきたいですね。
References:
African Union「AUHRM Project Focus Area: The Apartheid」
Britannica「Nelson Mandela」
Britanica「African National Congress」
Trading Economics「South Africa Unemployment Rate」
外務省「南アフリカ共和国」
South Africa Government「Land reform」
CIPESA「Ongoing Power Cuts Set Back South Africa’s Gains on Digital Access 」
ALJAZEERA「South Africa’s ANC loses 30-year parliamentary majority after election」
Text:Hao Kanayama