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食料問題解決の糸口になるかも。日本のスタートアップ企業が提示する、新たな食の選択肢【Steenz Breaking News】

食料問題解決の糸口になるかも。日本のスタートアップ企業が提示する、新たな食の選択肢【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、スタートアップが作る新たな食の選択肢についてご紹介します。

食の問題の現在地点

2024年7月24日に発表された国連5機関による「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」報告書。この中で、2023年に飢餓に直面した人は最大約7億5,700万人にものぼり、世界の人口比では11人に1人が飢餓にあると警告しています。SDGsの「目標2」では、2030年までに「飢餓をゼロに」することを目標にしていますが、世界の栄養不足は2008年から2009年と同等レベルであり、状況は後退していると言わざるをえません。

複雑な問題が絡みあう飢餓の問題。食料へのアクセスや公平な分配も大きな問題ですが、現行の食料生産にかかるさまざまなコストの軽減や効率化も、見過ごせない観点です。今日は、新しい視点で食料問題に取り組むスタートアップ企業を見てみましょう。

高タンパク質で栄養価の高いウキクサの大量生産へ

2023年に設立されたばかりのスタートアップ「Floatmeal株式会社」は、北海道大学院水産科学院の修士課程に在学している北村もあなさんが立ち上げた会社です。生産しているのは、高タンパク質で栄養価の高い「ウォルフィア」。ウキクサの一種です。

「ウォルフィア」は他のタンパク源と比較して、生産に必要な農地面積および水使用量が少なく済むという特徴があるのだそう。さらに、短期間で大量に繁殖するので、たんぱく質1kg当たりの生産コストも低いとのこと。農地や水、時間をたくさん必要とする他の農産物や食品と比べて、環境的にも経済的にも、極めて低コストで生産が行える期待の食品です。

食料不足の危機に立ち向かうべく「持続可能な生産で、食料安全保障と気候変動に挑む」というビジョンを掲げる同社は、「ウォルフィア」の安定した大量生産技術の確立をめざしています。

2024年6月には、廃棄物処理業を営む株式会社三友環境総合研究所とパートナーシップを結び、北海道安平町に生産拠点「Abira Laboratory 」を設立しました。両社での共同実証試験を通して、食品用途だけでなく、排水処理技術の開発、脱炭素システムの構築などへ開発を加速されていく予定になっています。

納豆菌そのものをタンパク源として食品化した「kin-pun」

慶應義塾大学発のスタートアップ企業「フェルメクテス株式会社」が開発したのは、納豆菌粉末食材「kin-pun」。なんと、納豆に含まれる納豆菌そのものをタンパク質源として食品化した素材なのだそう。

納豆には伝統的な発酵食品として食べられてきた長い歴史があり、その栄養価も広く知られているところです。実は納豆そのものより「kin-pun」の方が、たんぱく質の含有量が多く、香りが少ないという特徴があるため、さまざまな活用方法が考えられています。

「kin-pun」は、風味や栄養以外に、食品加工の幅を広げる特徴的な物性があるのだそうです。2024年8月には、食の街・日本橋で開催されたイベント「大屋根夏まつり in NIHONBASHI」において「kin-punフィナンシェ」の試食提供を行っています。そう遠くない未来、「kin-pun」でたんぱく質をアップさせた商品が、店頭に並ぶかもしれませんね。

環境負荷の低い「オリゼ甘味料」で食品ロス削減に挑む

米を発酵させた糖分「オリゼ甘味料」を使った、砂糖不使用のフード&ドリンクを生産しているのは「株式会社オリゼ」です。代表取締役の小泉泰英さんが、宇都宮大学農学部在学中に、前身となる「株式会社アグクル」を創業したところからはじまったスタートアップ企業です。

米麹由来の発酵糖分「オリゼ甘味料」は、日本の「国菌」ともいわれる麹を使った、古くて新しい発酵技術。これまでの麹発酵食品をリブランディングすることで、新しい形で現代のライフスタイルに米麹を根付かせること、コメの需要増や食品ロスの削減などをめざしています。

既に多くの企業とコラボした商品を販売しているほか、2024年7月からは、花王株式会社のすみだ事業場内の社員食堂で発生した余り白飯を活用し、麹調味料の製造を行う取り組みも進められています。

コメを発酵させて糖分をつくることは、既存で持続的な生産ができている田んぼを維持しつつ、日本の風土にあった甘味料をつくっていけるということ。「オリゼ甘味料」は、いままで廃棄されてきた規格外米や古米からも生産ができるため、コメの需要喚起や食品ロスの低減にもつながります。

また「オリゼ甘味料」は、森林への負荷をかけずに製造することができる点もポイント。砂糖の生産量1位であるブラジルでは、2010年からの10年間で、年間平均およそ149万haの森林面積が減少しているそう。その原因として挙げられるのが、森林を伐採して行うサトウキビによる砂糖の生産だといわれており、この新しい甘味料の普及が、持続可能性につながるのです。

麹という日本の伝統的な発酵技術、コメの生産者、地球環境、そして人々の健康と、あらゆる方面に貢献する、まさにソーシャルグッドな新食材を手掛ける「株式会社オリゼ」。2024年には総額4.7億円の資金調達を実施しており、今後は国内事業の増加やアメリカへの展開が予定されています。

スタートアップが照らす食の未来

これまでの枠に当てはまらない取り組みで、食の問題の解決を図ろうとするスタートアップ企業。今後、食卓にこうした食品が並ぶ日も、そう遠くはなさそうです。

References:
The State of Food Security and Nutrition in the World (SOFI) Report – 2024
世界森林資源評価(FRA)2020

Text:Itsuki Tanaka

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Itsuki Tanaka

ライター

フリーランスのライター。食、農、環境領域 /博物館好き/コーヒー、アイス、チョコも好き。

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