世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする「Steenz Breaking News」。今日は、オーストラリアで進められている、音響法を用いた土壌劣化の発見について、ご紹介します。
世界中で進む土壌劣化。それにより予想される被害とは
国際連合食糧農業機関(FAO)は、国際土壌年である2015年に発表した「世界土壌資源報告書」にて、33%の土地が劣化していると報告しています。そして劣化の主な原因は、浸食や塩類集積、圧密、酸性化、化学物質による汚染だそうです。
もし、これ以上劣化が進むと、食糧生産や食糧安全保障の分野にも影響が出てしまい、食料不足や値段の乱高下の増長、飢餓や貧困問題などが起きる可能性もあります。それ以外にも土壌というのは、水を濾過する機能を備えていたり、貯水タンクや温室効果ガスの放出を調整する役割も担っていたりするので、劣化によって悪影響が出る危険性も抱えているのです。
その一方で、科学的な知識と根拠に基づいた手法と技術を活用し、持続可能な土地管理ができれば、回復する見込みはあるとも報告書には記されています。取り返しがつかなくなる前に、なんとしてでも改善したいもの。そのため現在、日本を含め世界では、劣化した土地の回復に向けて、さまざまな研究が進められているのです。
オーストラリアで研究が進む、音響法による土壌検査
オーストラリアのフリンダース大学では「音響法によって土壌の劣化状態を知る研究」が進められています。調査方法は少しユニークで、土の中の音を聴いて土壌の状態を確認する、というもの。土の振動を拾う特殊なマイクを設置して、録音を20デシベルまで増幅させます。その後、研究者たちはその場から20m離れて静かに待ち、土から聴こえてくる音を確認するのです。
植物や小動物が多い土地では多様な音が聴こえ、反対に生き物が少ない土地では、単調な雑音しか聴こえないそうです。
昆虫やその他の無脊椎動物には、土壌の増強や栄養分の増加、浸食の防止などの効果があります。そのため「生き物が豊富な土壌=健康状態の良い土壌」と判断できるのです。ちなみに、発する音も生き物によって異なるそう。例えば、ミミズが多い土地は低く泡立つような音を発し、一方で、体重の軽いアリは「カチカチ」と高い音を発するそうです。どんな音がするのか、少し聴いてみたい気もしますね。
また、これまでの土壌検査は、DNA検査のように費用がかかるものや、土壌を掘り返したり、生物を捕獲したりと、環境の破壊が伴うものが主流でした。音響法による土壌検査は、そうした問題を抱えていた従来の検査方法と、同じように有効であることも確認されています。
周波数によって成長が加速する菌類がいることも発見
さらにこの音響法による研究では、土壌劣化以外にもわかることがあります。例えば、特定の周波数の音楽を聴かせると、成長が加速する土壌菌類がいることもわかりました。防音箱の中に菌類と有機物を入れたティーバッグを設置し、さまざまな周波数の音を聴かせたところ、高音波を受けたティーバッグの菌類は、他より約0.5g増加したそうです。
土壌の菌類などの微生物は、植物の成長や土壌中の栄養素の分解に欠かせない存在です。土壌の微生物がダメージを受けた場合、完全に回復するまでに数十年かかるといわれています。そのため今回の発見は、微生物の回復にかかる期間を短縮できるのではないかと期待されているのです。菌類の回復期間短縮も含めて、今後もフリンダース大学の研究に注目していきたいですね。
生活と切り離せない土壌劣化
地球上で急速に進む土壌劣化。日本に暮らしていると体感しにくいかもしれませんが、劣化は着実に進んでいます。そのため世界中では、さまざまな企業や団体が改善に向けて取り組んでいるのです。わたしたち個人でも「企業や団体が取り組んでいるから任せておけば大丈夫」ではなく、「自分には何ができるだろう」と、自分ごととして考えてみましょう。必ず、できることがあるはずです。
References:
世界土壌資源報告書(要約報告書)|国際連合食糧農業機関(FAO)
通商白書2024|経済産業省
Click, crackle and pop: healthy soil makes more noise, scientists find|Guardian News
Acoustic juice for soil recovery|flinders university
Text:Yuki Tsuruda