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タイの総選挙でタブーに挑む野党が大躍進。政治を動かす若者たちの声とSNSでのアクション【Steenz Breaking News】

タイの総選挙でタブーに挑む野党が大躍進。政治を動かす若者たちの声とSNSでのアクション【Steenz Breaking News】

世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、東南アジアのタイで行われた総選挙についてご紹介します。

タブーに挑む政党、若者から支持集める

タイで5月14日、下院総選挙が行われ、王室改革などを公約に掲げる野党・前進党が総選挙で最多の議席を獲得し、大きく躍進しました。

前進党は、アメリカ・ハーバード大学などに留学し、タイに戻ってフードビジネスを成功させた42歳のピタ党首が率いる革新系の政党です。

 

タイでは、王室を批判すると「不敬罪」に問われる可能性があり、これまで王室改革というのは、長年タブーとされてきました。今回の選挙で、前進党を主に支持するのは、言論の自由や完全な民主主義を求めるタイの若者たち。「古い政権はもういらない。前進党の掲げる公約には明るい未来への希望がある」と語るのは、支持者のピチットさん。選挙キャンペーン中には、前進党に関連する情報を熱心にSNSに投稿したといいます。

今回の選挙では、ピチットさんと同様に、多くの若者がSNSで前進党の情報をシェアし、支持を表明する投稿を行なっている様子が見受けられました。

権威主義への反発強まる

タイの現政権は、2014年5月、当時の陸軍司令官だったプラユット首相らのクーデターによって誕生しました。当時のプラユット政権下では、プミポン国王が絶大な人気を集めていましたが、2016年に逝去。それ以来、王室や軍を軸とする「権威主義」に対し、抵抗感を示す若者が増えていくようになりました。

2021年には、10代を含む学生や若者が中心となり、不敬罪の廃止やプラユット政権の退陣を求める大規模なデモが相次いで起こりました。新型コロナウイルス感染拡大後も抗議活動は続いており、タイの治安当局による弾圧も強まっています。

今年に入ってからも、不敬罪の廃止を求める20代の活動家2名が逮捕されました。2名の活動家は、刑務所内で50日にもわたる抗議のハンガーストライキを行い、一時は生命の危機に関わる状態になりました。

5月には、同じく不敬罪容疑で勾留されていた15歳の少女が保釈されましたが、収容施設の衛生状態が悪かったためか、少女の背中一面に湿疹ができ、当局の対応に批判が集まりました。

投票率は過去最高の75%

こうした状況下で、王室や軍の改革、最低賃金の引き上げなど、生活に密着した公約を掲げる前進党は、若者の心を強く引き付けました。また、SNSを駆使した前進党の戦略も、選挙戦での人気上昇の追い風に。

今回の総選挙の投票率は、過去最高の75.22%となり、人々の関心の高さを浮き彫りにしました。多くの若者が選挙に行った様子を撮影し、SNSに投稿していました。

一方で、前進党が掲げた公約が実行されるかどうか、先行きは不透明です。5月22日に、前進党を含む野党8党が連立を組むために交わされた覚書には、不敬罪の改正は盛り込まれていませんでした。前進党以外の野党とともに、今後、不敬罪の改正に向けてどのような取り組みがなされるのか、計画は未定です。

前進党の支持者からは、「これからのタイは、軍事クーデターによって統治されるのではなく、本当の民主主義国家になってほしい。若者はこれからの国の発展のために、もっと政治に関心をもっていかなければならないと思います」という声が聞かれます。

タイの完全な民主主義の実現に向け、若者の戦いは続きます。

 

Photo&Text:Risako Hata

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Risako Hata

ライター

タイ在住のジャーナリスト。共同通信系メディアにて5年のタイ駐在を経て独立。現在は、アジアの経済や人道問題、SDGsに関連する記事を執筆。

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