2023年6月12日(月)まで、国立新美術館で開催中の「ルーヴル美術館展 愛を描く」。世界最多の来場者数を誇るフランス・パリのルーヴル美術館から来日した、愛をテーマにした珠玉の作品を楽しむことができます。
ひとくちに「愛」と言っても、恋愛から、家族愛、信仰まで、そのかたちはさまざま。ドラマや映画で愛に浸るのも楽しいけれど、16世紀から19世紀を生きた「画家」の視点で愛について考えてみると、また違った発見があるかもしれません。
そこで今回、茶道とマインドフルネスをかけあわせた「ピクニック風茶道(Mindful Moment with Matcha)」など、海外向けに日本文化のアップデートに取り組んでいる10代、讃良さんに、その展示の魅力をレポートしてもらいました。
名画から読み解くさまざまな愛のかたち。「ルーヴル美術館展 愛を描く」
みなさんは「愛」と聞くと何を連想するでしょうか。幸せな結婚? それとも身を切るような失恋? 現在、国立新美術館で開催している『ルーヴル美術館展愛を描く』は、いい意味でそんな愛のテンプレートイメージを、刷新してくれました。
申し遅れましたが、今回、記事を執筆する讃良です。高校時代には、海外の学生に日本文化を紹介する活動をしていたこともあり、春から「文化が人や社会に与える影響」を研究するべく、大学に進学します。普段から、美術館めぐりが大好きなので、とても楽しくレポートさせていただきました!
薄ピンクの壁に大きく掲げられた目玉作品《アモルの標的》から始まり、この展覧会は、壁紙のカラーと絵画がマッチしていて、とにかくかわいい! テーマによって、情熱の赤、静謐な紺とカラーが移り変わっていくので、雰囲気にどっぷり浸ることができます。
さて、前置きはこのくらいにして、今回出会った作品たちの中でも、特に印象的だった3つの絵をご紹介したいと思います。
信仰と希望と愛《放蕩息子の帰宅》
暗い背景に浮かび上がる父と息子は、教会に飾られているのかと錯覚するほど、どこか神聖な面持ち。事実、これは聖書にも描かれている、キリスト教のたとえ話「放蕩息子」の一場面を描いたものです。
「愛を描く」と聞いて、スゴい恋愛とかヤバい浮気とかを想像していたところに、まさかの「家族愛」の登場……。どうやら本展は、いろいろな愛のかたちを示しているようで、ギリシャ神話の古典的な恋物語から、神の愛、近代になり描かれ始めた市井での恋の駆け引きなど、そのジャンルもさまざまでした。
第2章「キリスト教の神のもとに」というコーナーにあったこちらの作品は、表情が印象的。眉を下げた息子からは、赦しへの希望のようなものを感じます。一方、父親の表情は、父としての愛を超えた、神からの愛を表現しているのでしょうか……。教会に飾られているかのような第一印象は、そこから来ているのかもしれません。絵画というのは言葉を語りませんが、ときに言葉より雄弁に何かを伝えてくれるんですね。
意味が分かると気まずい絵《部屋履き》
最初に見たとき、頭の中を巨大なはてなマークが占領した、この《部屋履き》という作品。ほかの作品が、美しい少女や男女の駆け引きをダイナミックに表現するなか、ぽつねんと描かれた誰もいない部屋。正直、まわりの絵から浮いていました。が、その疑問は解説を読むことで、消えてなくなります。
この家には女性が住んでいて、手前左にある箒は、女性が仕事を放棄したことをしたことを示しています。床に転がったスリッパは彼女が脱ぎ捨てたもの。そして部屋の中に掛けられた《雅な会話》という絵は、金銭の絡んだ愛が主題なんだとか……。ここから先は、ぜひ実際に絵画を見て、みなさんに考察してもらいたいところです。
わかるひとにはわかる暗号みたいな絵で、その暗号を解読してしまえば、実際にその場面を出くわしてしまったような、没入感と僅かな気まずさが残る……。とはいってもわたしは、「意味が分かると怖い話」が大好きなタイプなので、こういったモチーフの中に隠された意味、「寓意」にテンションが上がりました! 今回の展覧会だけでも、たくさんの寓意が登場していて、見つける度にエアで手を叩いて興奮していました(美術館は静かにしないといけないので)。
絵に解釈を委ねられる《かんぬき》
《部屋履き》とは打って変わって、躍動感あふれる情熱的なこちらの『かんぬき』は、特に人間の複雑な感情やアンビバレンスさを表現している作品です。
体を捻った女性は、一見すると男性を拒否しているようにも見え、身を任せているようにも見えます。服装からして、女性は高貴な身分、男性は彼女よりも下の身分のよう。描いた作者は、恋に身を滅ぼすことへ警告しているのか、それとも自由な恋を礼賛しているのか……。どちらにも受け取れるのが、面白いところです。
そんなこんなで、さまざまな絵画から、愛の見方や表現方法を知ることができた『ルーヴル美術館展 愛を描く』。絵画は第一印象から始まり、背景にある知識、隠された意味、作者の真意、そして受け手の価値観と、たくさんのレイヤーが存在し、考えれば考えるほど楽しくなるコンテンツだと、あたらめて感じました。ぜひ、身構えることなく、物言わぬ絵たちが放つメッセージを聞きに、美術館に足を運んでみてください。
「ルーヴル美術館展 愛を描く」概要
Text&Photo:Sarasa