
こんにちは、KANEI(カネイ)というファッションブランドのデザイナーをしている山岡寛泳です。このコラムでは、私がどのようにして服をデザインしているのか、その過程や考え方を少しずつ綴っていきたいと思います。
“今”ではなく、“未来”を見る仕事
ファッションの世界では、「今、着たい服」ではなく、「半年後に、着たくなる服」をデザインします。
春夏の展示会は、秋が深まる頃に開催されます。けれど、そこで発表された服が実際に店頭に並ぶのはさらに半年後。つまり、私はいつも一年先の季節を頭の中に描きながら、いま服づくりをしているということになります。
このタイムラグは、初めてこの業界に入ったとき、少し不思議にも感じました。
でも今では、その“未来を想像する感覚”こそが、ファッションデザインの醍醐味の一つだと感じています。
企画がスタートするのは、展示会が終わってすぐの頃。受注数を見て反応も参考にしつつ、次のシーズンの方向性を探りはじめます。
一年を四つの季節で切り取るだけでなく、世界中のコレクションや展示会のスケジュール、国内外の気候や文化、そして人々のムードを繊細に読み取っていく。その複雑な設計の中で、ひとつのテーマを探しあてることが、私の最初の仕事になります。
テーマは、生活と旅の交差点に
私はテーマを決めるとき、いつもまず「雰囲気」を想像します。
たとえば、風が吹き抜ける道沿いの家。海に面した古い港町。そこにいる人々が着ていそうな服。
旅の途中でふと出会った色や匂い、街の壁に残るサビの質感、配達員の箱の金具に感じた力強さ。そういった断片が、頭の中に積もっていきます。
最近は「海風」を感じるような空気をまとった服をつくりたいと思っていて、古いヨーロッパのセーラーや漁師たちの写真をたくさん見ています。
その写真に映る彼らの目の色、布のシワ、重ね着の工夫。そこに流れている“生きた時間”を、自分なりの方法でファッションに昇華できないかと考えています。
同時に、私は“思想”もテーマに込めます。
言葉にならない違和感、問いかけ、誰かの生活を想像すること。そうした思考と、日々出会ったイメージをひとつの言葉に閉じ込めるようにして、シーズンテーマが立ち上がっていきます。
一枚の線から始まる、思考と構造の旅
テーマが決まると、スケッチを始めます。
アイデアは紙に描くことが多いです。直感的に手が動くのは、やっぱりペンと紙。アイデアの断片を何十枚も書き出しながら、そこに色や形をのせていきます。最終的にはiPadに移して清書をしますが、最初の「ぐちゃぐちゃした落書き」こそが、自分の本音が宿る部分だと思っています。
ただし、ファッションはアートではありません。人が日常で身にまとう、生活に密着した存在です。だから私は、どれだけ世界観があっても「これは本当に着られるか?」「洗濯できるか?」といった現実的な問いを、自分に必ず投げかけます。
さらに、マーチャンダイズとのバランスも大切にします。どんなラインナップで展開するか。トップス、ボトムス、羽織りもの、小物。全体を俯瞰して、同じ役割のアイテムが重なりすぎていないか。シーズン全体がひとつの物語として、まとまって見えるか。
そのうえで、「この中からどれを選んでもKANEIらしく着られる」と思ってもらえるように設計しています。
手で触れて、想像が広がる
“手触り”が、すべてを変える
企画やデザインが進んだら、次は素材と工場の選定です。
私は必ず、現場に足を運ぶようにしています。工場の人たちと話し、機械の音を聞き、手で布を触る。そこから得られる情報は、ネットや資料では絶対に得られません。
工場の方々と直接話すことで、「この技法ならこういうことができる」といったアイデアがふくらむこともあります。量産できる範囲で、いかに独自性やクラフト感を出せるか。そうした“折り合い”を探る作業は、とても人間的で、面白い時間です。
ファッションの仕事は、右脳と左脳のどちらも使う仕事だと思います。
理屈と感性、効率と美意識。両方を行き来しながら、少しずつ少しずつ服が形になっていきます。
次回は、KANEIという名前に込めた意味、そして「旅する服」をつくる上で大切にしている価値観について、少しお話しできたらと思います。
どうぞ、お楽しみに。