
世の中にあふれる情報から、10代が知っておくべき話題をお届けする、「Steenz Breaking News」。今日は、食品廃棄物の減少に挑む埼玉県のベンチャー企業が開発した技術についてご紹介します。
日本では、食品ロスの半減に成功している?
本来は食べられるにもかかわらず、食材や料理が捨てられてしまう「食品ロス」がいま大きな問題となっています。SDGsにも「小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させること」という目標が盛り込まれており、世界全体で取り組まれているイシューのひとつです。
では、食品ロスの問題は、日本ではどのような状況にあるのでしょうか。
日本の2022年度の食品ロス量は472万トンにのぼりました。現状の内訳は、事業系と家庭系がおよそ半分ずつ。特に事業系では、2000年度の547万トンから半減以下に抑えることができています。日本単独ではありますが、SDGsの目標のひとつを達成したと言えそうです。
でも、実はまだ多い食品ロス
とはいえ、まだまだ食品工場からのロスが多いのも事実です。食品工場から発生する食品由来の廃棄物には、野菜の不可食部分や、米ぬか、果物の搾りかすなどが含まれます。こうした廃棄物の量は、農林水産省が2024年度に公表した調査によれば、およそ1500万トンにのぼるようです。
ただ、廃棄物として捨てられてしまうのはもったいないとはいえ、そのままでは人間が食べることができないものも多いのが分かります。そのため、従来では食品由来の廃棄物を家畜の飼料や堆肥へと回すことが多くなっていました。飼料や肥料にできないものは、すべて廃棄に。そして、こうした廃棄物をゼロにすることは、コストや時間が大幅にかかるために難しいとされていました。
このような問題に焦点を当て、新たな視点から解決に向けて取り組んでいるのが、フードテックベンチャーのASTRA FOOD PLAN株式会社です。同社はいま、特許取得済みの装置『過熱蒸煎機』を使い、食品をアップサイクルするソリューション開発を手がけています。
「過熱水蒸気」により食品をアップサイクルする新手法とは?
捨てられる食品を人間が食べられるようにアップサイクルできたら、世界で深刻化する食糧問題の解決策をひとつ見出すことができます。また、企業にとっては、これまでお金を払って処理していた不要な食材を、違う商品を作るための原材料として売れるようになります。そうした「食品のアップサイクル」を実現するための技術は、初期費用も維持費も高額なことがネックになっていました。
そこで、「ASTRA FOOD PLAN」が着目したのが、過熱水蒸気による廃棄食材のパウダー化です。熱風と共に数百度の高温スチームをあてることで、食材が酸化しにくくなり、栄養価の損失と風味の劣化を防ぐことができるのだそう。また、食材によっては旨味成分が増加するだけでなく、熱風のみで乾燥した場合よりもビタミンE、β-カロテンや葉酸などの栄養価が高くなるようです。
食材を乾燥させたいのにもかかわらず水蒸気をあてるのは矛盾しているように感じてしまいますが、装置内は300度を超える高温になるため、食品内の水分は必ず蒸発します。しかも、装置の構造内に熱源となるボイラーを必要とせず、熱風と水蒸気を併用しているために、エネルギー効率が極めて高いのだとか。その結果、食材への加熱時間は5~10秒で済むというのですから驚きです。
さらに、水蒸気と熱風の併用で殺菌効果も高まっており、食品として十分な安全性を持ったパウダーが誕生するのだそう。このような装置の新規性が認められ、過熱蒸煎機は2024年3月に特許を取りました。
規格外農作物や野菜の端材などを過熱蒸煎機で乾燥・粉末化した食品パウダーは「ぐるりこ®」と名付けられ、製品化。ロスを排出した企業とは別の企業で、利用が始まっています。
吉野家の玉ねぎ端材をアップサイクル! 700kgが3.5時間で粉末に
実際に過熱蒸煎機が導入された事例のひとつは、年間1億食の牛丼を提供している大手外食チェーンの「𠮷野家」です。牛丼にかかせない玉ねぎですが、年間約250トンもの端材が発生しているのだそう。玉ねぎの芯や、表面の硬い部分、規格外の大きさのものなどが弾かれていたのです。
生の玉ねぎは飼料にすると、動物が中毒症状を引き起こす可能性があります。また、抗菌作用が強いため堆肥化することもできません。そのため、吉野家が出していた玉ねぎの端材は、これまで全量が廃棄されてきました。廃棄処分にかかる費用は年間数百万円にのぼっていたといいます。
そこで、過熱蒸煎機を2024年2月からセントラル工場(吉野家東京工場)で導入することに。セントラル工場では、1日最大700kgの玉ねぎ端材が発生していました。しかし現在は、ほぼ全てをパウダー化することができていて、「ぐるりこ®」となった玉ねぎパウダーは、ASTRA FOOD PLANが買い取っています。
ASTRA FOOD PLANは、買い取った玉ねぎの「ぐるりこ®」を各所で販売。本社のある埼玉県富士見市のふるさと納税の返礼品になったり、クラウドファンディングで200%超えの人気商品となった「オリジナルソーセージ&ジャーマンミートローフ」などになったりしています(クラウドファンディングはすでに終了しています)。
今後、𠮷野家から排出される玉ねぎ端材の250トン全てが可食製品になると、食にまつわるサプライチェーンが大幅に変化することが予測されます。
他の食材も試験中! 過熱蒸煎機がつくる未来の食のサプライチェーン
一見すると簡単そうな過熱蒸煎機での食材加工ですが、各食材の形や含まれる水分量、栄養価はさまざま。そのため、食品の特性毎に緻密な調整が要求されます。また、菌数と加熱温度の関係も見極める必要があります。さらに、出てくる食品ロスの形態も食品メーカーごとに異なります。各食品の条件に合った加工をしていくのは大変ですが、捨てられていた食品をアップサイクルできるのは素晴らしい技術ですよね。今後、さらに広まっていくことに期待したいです。
References:
農林水産省令和4年度の事業系食品ロス量が削減目標を達成!」
令和4年度食品循環資源の再生利用等実態調査結果
Text:Itsuki Tanaka