
音楽、映画、アート……。ふとしたディグで、まだ知られていない“良いモノ”に出会って人知れず興奮する。 まさに、自分の手で掘り当てる喜びこそ、カルチャーを楽しむ醍醐味のひとつですよね。
「A面よりもB面が好き。そんな自分もちょっと好き」。
この感覚こそ、カルチャー好きのちょっと歪な美学。
アルゴリズムに頼らず、自分の感覚で見つけた何か。
誰よりも早く、知らない世界を覗いてしまったような感覚。
本当はシェアしたいけど、まだあんまり知られてほしくない。
そんな矛盾も含めて、楽しんでしまおう。
ということでこの企画では、知ってたらなんだか誇らしい、 ポップカルチャーやメインストリームの裏側にある“B面的”なカルチャーの世界を探訪していきます。
サブカルの街、下北沢のビルの二階。ひっそり佇む映画館。
ディープなスポットと出会うには、ディープなカルチャーが息づく街に足を運ぶのがいちばんの近道。ということで、第1回では下北沢で見つけたミニシアター『下北沢トリウッド』にお邪魔しました。
古着店やレコードショップ、小劇場にライブハウスまでが立ち並び、長年にわたってサブカルの街として親しまれている下北沢。小田急線の地下化に伴う再開発で、街の景色や人は変わりつつあっても、1999年12月のオープン時から現在まで、その時代ごとのカルチャー好きな若者たちが集まり続けているそう。
というのも、当時、駆け出しの作家が手がけた短編作品を公開できる場が少なく、若い作家を応援する目的もあって、短編専門の映画館としてオープンしたのがここ下北沢トリウッド。映画フリークからは、新海誠監督の初の劇場公開作品「ほしのこえ」を上映した場所としても知られています。
つまり、この場所の根底にはカルチャーの芽を育てる精神が流れているわけです。
上映ラインナップににじむ、劇場の個性に注目。
ミニシアターと出会ったら、まず最初にみておきたいのが上映作品のラインナップ。シネコンと違って、上映作品が配給会社の意向に左右されないから、ここをチェックしておけば、なんとなく劇場の個性がつかめてくるはず。
ミニシアターではインディペンデント作品やドキュメンタリーの上映が多いなか、アニメーション作品を含め、ポップなチョイスが多めなのが下北沢トリウッドのカラー。少し背伸びしてミニシアターを訪れてみたら、作品の良し悪し以前に「内容が難解でわからない……」なんて思いをすることもあるから、このセレクトが初心者には何気にありがたかったりします。
これらの上映作品は劇場を運営するスタッフの話し合いによって選定されていて、近年はスタッフがアニメも好きであることや、色々な人にフラットに、気軽に楽しんでほしいという想いからのセレクトなんだそう。
変わりゆく街で、変わらない好奇心を受けとめる黄色い椅子
いざ、劇場の中へ。座席数は全45席。こぢんまりした空間で、なんとも特徴的なのが、ころんとしたフォルムの黄色い座席。これには「どんな作品を見たあとでも、黄色の椅子が目に入れば、少し前向きな気持ちで劇場をでれるんじゃないか」というオーナーの想いがこもっています。
オープン当時は、この黄色ももっと鮮やかだったのかなあ、なんて想像しながら、座席の温かい使用感を眺める。これこそ、街の変化によって周囲の店や人が次々と変わっていくなかでも、トリウッドには、変わらず何か面白いものを探している人たちが足を運んでいる証。
ミニシアターの入り口として、緩やかに呼吸し続ける
下北沢トリウッドが配給した作品。
近年、老舗ミニシアターの閉館が相次いでいます。それを憂う声もあるなか、スタッフの山本さんはこう語ってくれました。
「”ミニシアターの文化を守る”みたいなことももちろん大事だけど、うちでは、真面目なことだけじゃなく、色々な人が楽しめそうなことも沢山やっていきたいなと思っていて。入り口みたいな存在になれればいいかなって。そのくらい緩い感じで、細々と続けていけたらいいなと思います」
気負わず、力まず、それでも確かに続けていく。そんなゆるやかな熱量で、下北沢トリウッドはこの街のカルチャーのコアとして、今日も静かに息をしている。
今回訪れたのは…
『下北沢トリウッド』
電話番号:03-3414-0433
住所:東京都世田谷区代沢5-32-5シェルボ下北沢 20B